楽曲は常に消費される
イチオシの曲が売れれば、大儲け――韓国の若い世代の財テクとして音楽著作権への投資が急浮上しています。これまでは作詞・作曲家や歌手らの“専有物”だった音楽著作権が、一般市民の投資対象に様変わりしました。もはや「音楽は聴くものではない、投資するもの」。著作権ビジネスの現状を取材しました。(シリーズ2/4回)
ヒット曲の所有が投資の一種となった。
YouTubeミュージック、Spotifyといったストリーミングサービス市場が拡大し、音楽著作権が「お金になる資産」になった。世界トップの音楽市場である米国では、兆単位の掛け金がやり取りされている。
米プライベート・エクイティ・ファンド(PEF)運用会社「ブラックストーン(Blackstone)」は昨年10月12日、英音楽投資会社「ヒプノシス(Hipgnosis)」を通じ、音楽著作権に10億ドルを投資すると発表した。
ヒプノシスは、ビヨンセやエルトン・ジョンら歌手、ガンズ・アンド・ローゼズ、アイアン・メイデンなどのバンドマネジャーを務めたメルク・メルキュリアディス(Merck Mercuriadis)が2018年に設立した英上場企業だ。ヒプノシスはこの3年間、17億5000万ドルをかけて、ニール・ヤング、マライア・キャリー、ビヨンセ、ジャスティン・ビーバーら有名歌手の約6万曲の著作権を買い入れた。
メルキュリアディスは音楽著作権を金や原油などの資源にたとえて、攻撃的に投資してきた。米音楽専門誌「Rollin’グ・ストーン」によると、メルキュリアディスは「金と石油価格はさまざまな要因に影響を受け変動するが、歌はそうではない。歌は常に消費されている」との認識を示している。
ブラックストーンは音楽著作権への投資収益率に期待をかけている。音楽ストリーミング市場が早いテンポで成長し、これに伴って著作権の収益も上がるという判断だ。
◇売上の60%以上がストリーミング
音楽著作権市場が投資家の激戦地になった。ユニバーサルミュージック、ワーナーミュージック、BMGなど主要レコード会社は音源著作権を確保するために投資している。ブラックストーン、コールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)、アポロ・グローバル・マネジメントなどが市場に参入した。
ブラックストーン首席専務取締役のカシム・アバス(Kasim Abbas)氏は米紙ウォールストリート・ジャーナルにこんな見解を示した。
「SpotifyやYouTube、Peloton、ROBLOXといったプラットフォームで多くのデータを活用し、これに基づいた投資と管理の決定を下す」
グローバル音楽市場でストリーミング市場は、2016年までは実物アルバム市場に比べ規模が小さかった。だが、大幅な成長を繰り返し、国際レコード産業連盟(IFPI)によると、2020年には全世界音源市場の売り上げの約62.1%がオンラインのストリーミングで発生した。
インターネットの広範囲な普及やスマートフォン、ブルートゥース、スピーカーなど、デジタル装備の使用者が増加したのが主な要因だ。また、オーダーメード型再生サービスなどで、音楽ストリーミング市場は引き続き成長する見通しだ。
ビジョナリー・ミュージック・グループ(Visionary Music Group)は昨年5月、英ロックバンドのレッド・ホット・チリ・ペッパーズの「カリフォルニア・ケーション」や「スカティッシュ」などヒット曲を含むカタログ版権を1億4000万ドルで購入した。グループ設立者のクリス・ジャロウは「歌の領域が多くの投資家とヘッジファンドにとって非常に興味深い資産レベルになっており、さらに加熱する余地もある」と述べた。
◇アーティストが新型コロナで音楽権利「現金化」
米ポップスターらは、バイデン政権が譲渡所得税率を本格的に引き上げる前に、保有著作権を売り物に出している。2020年12月にはノーベル文学賞を受賞したボブ・ディランが、自作のすべての歌の版権を推定4億ドルでユニバーサルミュージックに売った。ニール・ヤングも昨年1月、ヒプノシスに自身の歌の版権50%を売った。
バイデン政権は、100万ドル以上の資産売却をめぐる資本利得税を、現在の最大20%から37%に引き上げる案を推進。版権を4億ドルで売ったボブ・ディランの場合、20%なら税金は8000万ドルだが、37%なら1億4500万ドルを払わなければならない。
新型コロナウイルス感染により、アーティストは公演収益を上げられない。この状況も音楽に対する権利の「現金化」を促した。投資家が、音楽を「大きな変動がなく、安定した資産」と判断したことで、両者のニーズが合致した。音楽ストリーミングは新型コロナなどの問題に影響されず、むしろ人々が家に滞在する時間が増え、市場が育った。
ジャロウはこう話す。
「芸術家が、生涯の作品を収益化し、有益な税金面で利益を得られる驚くべき方法だ。歌は長期的な資本利得の手段と見なされている。私はこれが皆にとってウィンウィンだとと思っている、すばらしい発展だ」
TikTokなどのSNSにより、全盛期が過ぎた名曲を再び取り上げられ、著作権の価値が再評価されたりもする。2020年のTikTokでは、フリートウッド・マックの「噂(Rumors)」という1977年に発売された歌の人気が急上昇した。
「今はその歌が存在することさえ知らなかった新しい世代に改めて紹介されたりしている。TikTokなどに登場するカタログの予測不可能性も購入者に大きな利点になる」
ジャロウはこう見ている。
(つづく)