12月3日の「非常戒厳」事態はオンラインの世界も揺るがせた。韓国国民の民意が流れる窓口であるSNSは、刻一刻と変化する緊迫した政治状況を世界に知らせるとともに、戒厳を阻止し、大統領弾劾の世論を高める役割を果たしている。情報通信技術(ICT)に基づく「超連結」時代がもたらした「技術民主主義」の現場を見てみる。
◇テレグラムが「デジタル避難所」に浮上
韓国のユン・ソンニョル(尹錫悦)大統領が「非常戒厳」を宣言すると、「デジタル亡命」が始まった。戒厳司令部が個人間の会話を監視する可能性があるとの懸念から、韓国政府が統制しにくい海外SNSへ大量に移動したのだ。これまで警察の捜査に協力しないため犯罪の温床として批判されてきたテレグラムが「デジタル避難所」として浮上した。実際、テレグラムの新規インストール数はユン政権が発足した過去3年間で最高記録を更新した。
モバイルインデックスによると、非常戒厳が宣言された3日、テレグラムのDAU(1日アクティブユーザー数)は152万3970人に達し、総利用時間は42万6077時間に上った。特に、この日だけで4万576人がテレグラムアプリを新たにインストールした。今年の新規インストール数が1日平均7000件程度だったことを考えると、非常戒厳によって登録者数が急増したことがわかる。
利用者数、総利用時間、新規加入者数のいずれも過去3年間(2022年1月1日~2024年12月8日)で最高値を記録し、通信検閲に対する国民の不安が高かったことを示している。テレグラムはロシア出身のパベル・ドゥロフ氏が「検閲を受けない自由」を強調して2013年に開発したアプリだ。セキュリティが高く、サーバーに会話記録が残らないため、政界・官界でも愛用されてきた。
◇XとVPNが通信制限への対抗手段
旧Twitter時代から「オンライン広場」の役割を果たしてきたXも大いに賑わった。
3日にはXの利用者数は384万3925人に達し、過去3年間で最高水準を記録した。新規インストール件数も前日比で80%急増し、2万5605件に上った。当時、非常戒厳に関連する投稿だけでも80万件を超えた。
「X上で『ソウル中心部の戦車の画像』などフェイクニュースが流れたこともあったが、それを訂正するファクトチェック投稿が最も早くアップされた。夜通しXでリアルタイムの意見交換をしながら、不安な気持ちを紛らわせた」
30代の会社員はこう振り返った。
検閲を回避するVPN(仮想専用線)も注目を集めた。3日午前1時30分当時、韓国でのAppleのAppStoreでは「NinjaVPN」が3位、「UnicornHTTPS」が12位、「NordVPN」が22位とランキングが急上昇した。VPNを利用すれば、利用者のIP(インターネットプロトコル)や接続先をすべて隠すことができ、韓国国内の通信事業者(ISP)の制裁を避けることができる。
◇ネット社会で表現の自由を統制する難しさ
このようにデジタルサービスが多様化したことから、現代における表現の自由を制限するのは、軍事政権時代の戒厳令では難しい。戒厳司令部の布告令(第1号)には「すべての言論と出版は戒厳司令部の統制を受ける」と記されているが、いまや主要メディアや出版社を掌握しても世論を動かすのは難しい時代になった。
ソウル女子大学のパク・ジング教授(メディア映像学部)は「戒厳司令部の布告令は『こんにちのメディアとは何か』を理解していない。レガシーメディアが取り上げなくても、すべての国民がスマートフォンを使って起きていることや正しいこと、間違ったことを語れる時代だ。言論・出版を統制するという発想自体が時代錯誤だ」と批判した。
建国大学のファン・ヨンソク教授(メディアコミュニケーション学科)も次に点を強調する。
「かつて供給者中心だったメディア環境とは異なり、ネットワーク社会では多面的かつ分散型のチャンネルを通じて情報が生産・授受される。通信網を統制しない限り、世論の統制は不可能であり、すべての日常と経済活動がネットワークに基づく超連結社会では実現できないことだ。表現の自由の統制や遮断が不可能な時代にあることを改めて示した」
(つづく)
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