韓国で3日の「非常戒厳」宣布に続くユン・ソンニョル(尹錫悦)大統領の弾劾政局により、「人工知能(AI)基本法」が長期間漂流する可能性が高まって、業界の懸念が深まっている。海外のビッグテック企業が新たなAI技術を次々と発表して競争力を強化する中、国内企業はAI関連制度の不備により対応が遅れ、世界市場での立場が徐々に後退するとの危機感が広がっている。
関係業界筋は11日、ユン大統領の弾劾推進以降、与野党間の対立が激化し、AI基本法の通過時期が来年にずれ込む可能性が高まっていると話した。国会本会議では当初、AI基本法の審議・採決を10日に予定していた。しかし、非常戒厳事態の影響で同日は「内乱容疑に関する常設特別検察捜査要求案」のみが議決され、AI基本法を含む科学技術情報放送通信委員会(科放委)の議題は上程されなかった。
AI基本法は、AIの高リスク分野に対する告知義務の付与といった規制だけでなく、AI産業の育成と活用支援などを明文化した法案だ。この法律が制定されれば、関連政府機関の新設や迅速な予算執行が可能になる。また▽AI技術導入や活用の支援▽産業育成▽AI倫理原則に基づく政策立案▽高リスク分野AIの告知義務付与――など、産業振興と規制の基準が明示されている。これまで韓国では、法的基盤が整備されず、国際的な流れに遅れを取っているとの指摘が目立っていた。
与野党議員は関連法案を相次いで提出し、現在、科放委の全体会議を通過したAI基本法は、発議された19件の法案を統合したものだ。業界は法案が早期に成立することを切望。早ければ今月28日にもAI基本法が制定されると期待していた。
しかし、ユン大統領が3日夜、突如として非常戒厳を発令したことで状況が混迷。11月26日に科放委全体会議を通過し、12月中に法制司法委員会(法司委)と本会議を通過して年内に制定が完了する計画が狂った。
業界では予期せぬ非常戒厳と弾劾政局への移行で与野党対立が長期化する中、前会期のようにAI基本法が結局、漂流するのではないかとの懸念が強まっている。さらに、法案の年内通過を基点に技術力を引き上げるため投資や採用を計画していた企業も、困惑を隠せない状況だ。
AI基本法の制定が不透明な状況で、ビッグテック企業と韓国AI企業の技術格差がさらに広がっている点も憂慮されている。実際、OpenAI、Meta、Amazon、Microsoft(MS)などは動画生成AIを含む多様なAIサービスを展開している。だが、韓国では動画分野への拡張どころか画像生成サービスの運営すらままならないのが現状だ。カカオは2024年7月に画像生成AIサービス「カルロ」を終了し、ネイバーの子会社スノウも12月18日に画像生成AIサービス「ラスコAI」の提供を完全終了する。
業界関係者は「政府のAI関連支援は法の制定がなければ現状では限界がある。技術発展のためには最低限の枠組みが必要だが、他の懸案に押されて法の制定が進まない現状に業界は非常に苦しい思いをしている」と語った。
さらに、2027年までに「AI G3(AI世界3大強国)」入りを目指してインフラへの投資や支援を具体化するという政府の計画も暗礁に乗り上げた。大統領直属の国家AI委員会は今月2日に産業界や学界など各分野の専門家で分科委員会を構成し、国家AI戦略を立案する計画だったが、これも不透明になった。
AI基本法の制定を積極的に推進してきた科学技術情報通信省は、定期国会終了後も臨時国会で年内に最大限進展を図る。
ある業界関係者は「規制の詳細内容に賛否があるとしても、規制の不確実性が解消されるだけでも企業は対応しやすくなる。予想外の非常戒厳とその解除によって国政が大混乱に陥った状況が非常に残念だ」と語った。また「国家の支援がタイミングを逃すと、AI関連の人材流出などにより莫大な損失が発生するだろう。産業が急速に変化している時期にこのような事態が発生し、非常に残念だ」と述べた。
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