映画「キングスマン」では、悪役が人々の脳内にチップを埋め込み操作するシーンが描かれる。これはフィクションのように見えるが、技術の進展により実現可能な未来かもしれない。体内にチップを埋め込む技術は急速に発展しており、さまざまな分野で研究が進められている。
特に医療分野では、体内に埋め込まれたチップが健康状態をリアルタイムでモニタリングすることが注目されている。
例えば、心拍数の監視や糖尿病患者の血糖値管理など、これまでウェアラブルデバイスが担ってきた役割を、皮膚の下に埋め込まれたチップが代替する可能性がある。
スウェーデンではすでに、手のひらに小さなカード型のRFID(無線周波数識別、電波を用いて無線でデータを読み取り、モノを識別・管理するシステム)チップを埋め込み、アクセスカードや鍵の代わりとして利用する実験が成功している。さらに、バス料金の支払いなど、クレジットカードの機能も果たせるという。
しかし、こうした技術には懸念も多い。プライバシーの侵害やセキュリティ問題が指摘されており、チップに保存された個人情報がハッキングや追跡の対象になるリスクがある。
また、特定の機関や企業が個人の動向を常に監視する可能性も否定できない。こうした問題に対する解決策が提示されない限り、チップ埋め込み技術が広く受け入れられることは難しい。
この分野で注目される人物の一人が、米起業家のイーロン・マスク氏だ。マスク氏が進めるニューラリンク(Neuralink)プロジェクトは、AIと人間の融合を目指して、脳に微細なチップを埋め込んで人間とコンピューターを接続する技術だ。これにより、人間の脳はAIと直接対話し、知能を大幅に向上させることが期待されている。
イーロン・マスク氏は特に、この技術が身体に障害を持つ人々に対して革新的な治療法を提供できると主張している。脳の損傷を受けた患者が再び歩いたり話したりできるようになる可能性があるという。
実際に、猿の脳にニューラリンクのチップを埋め込み、思考だけでコンピュータゲームを操作することに成功したという研究結果も発表された。
この実験は神経科学の分野に大きな衝撃を与えたものの、その後の実験で23匹中15匹が死亡するなど、重大な副作用も浮き彫りになった。
チップ埋め込み技術を巡る倫理的・社会的な論争は避けられない。体内にチップを埋め込むことは、ある程度、身体と精神の自主的な制御を手放すことを意味するためだ。
「私たちの体にチップを埋め込む未来は来るのか?」。この問いに対する答えは、技術の進展だけでなく、社会的な合意と法的枠組みの整備がどれほど進むかにかかっている。【news1 ソン・オムジ記者】
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