「韓国版六本木ヒルズ」とも称されるソウル市九老区新道林の複合文化空間「D-CUBE city」で、ここに入る百貨店をオフィスに用途変更する計画が明らかになり、マンションに居住する住民の反発が強まっている。
D-CUBE cityは2011年、大成産業の練炭工場跡地に建てられた。タワー棟(百貨店、ホテルなどの商業施設)とマンション棟を分けて設計した構造で、現代百貨店D-CUBE city店やシェラトンホテル、ミュージカル専用のD-CUBEアートセンター、映画館や書店、レストランなどの店舗が入った。かつて工業団地として知られていた新道林洞が、新たな住宅地としてイメージを変える大きな要因となった。
ところが、D-CUBE cityを買収した韓国の不動産資産運用会社「イージス資産運用」が2022年6月、賃貸契約満了(来年6月)を控えた現代百貨店に「契約を延長しない」と通告した。
現代百貨店は当初、大成産業との間で10年間運営した後、さらに10年の延長を議論する「10+10」形式の契約を結んでおり、問題がなければ2035年まで運営を続ける予定だった。現代百貨店D-CUBE city店は昨年、売上額2306億ウォン(約253億円)を記録している。近隣の「ザ・現代ソウル」などと比較すれば相対的に少ないものの、黒字を維持しており、現代百貨店側は契約延長を希望していた。
だがイージス資産運用は百貨店を「COEX(コエックス)のような業務・流通複合施設」に転換する方針を明らかにした。今年3月には商業施設として許可を受けた百貨店建物の用途を、オフィス空間に変更する申請書を九老区庁に提出した。
用途変更は百貨店だけではない。シェラトンホテルも所有者が大成産業からシンガポールの不動産投資会社に移って2021年11月に営業を終了している。その後、用途変更によりオフィスに変わっている。
◇矛先は区庁に
こうした用途変更にマンション棟の住民が怒りを露わにしている。そもそもD-CUBE cityの商業施設と連携した住商複合の形態を前提に購入・入居したため、反発は大きい。
加えて、今回の件に先立ち、イージス資産運用が買収してオフィス転用した「新道林ピンポイント」に対する不満も影響している。ピンポイントビルが住宅団地の中央に位置するため、通行人や子どもたちが勤務者の喫煙に無防備にさらされることが問題となっている。住宅団地一帯に設けられた公園が大規模な喫煙区域に変わり、住民の不満も高まっている。
一連の騒動において、マンション住民が抗議の矛先を向けているのは、新道林駅周辺の開発計画に反する行動を取った九老区庁だ。区庁は2016年に新道林駅周辺と京仁路などを商業地区に転換し、敷地の容積率を引き上げた。推奨用途を順守する必要があるという内容も含まれていたにもかかわらず、建物所有者が変わったのを機に突然、大規模な商業施設がオフィス地区に変更されるという状況になったからだ。
住民らは「区庁は区民のための複合文化商業施設を維持すべきだ」と主張して周辺道路で抗議ビラを配布し、区庁のホームページに抗議の投稿を多数寄せている。2000人以上が署名した請願書を地元の国会議員に提出した。
この状況の中、区庁は用途変更に関する審議と議決を終えたことが確認された。
用途変更申請書が受理されれば、申告手続きが残るだけとなる。区議会はホームページの苦情掲示板に「現代百貨店の改装及び用途変更は現在検討中の事項」と回答しているが、実際には内部手続きは終了しており、住民に虚偽の回答をした形となっている。
住民の反発が激しくなる中、イージス資産運用側は提出済みの用途変更申請書を補完するため、いったん回収したという。同社関係者は「近隣住民が利用できる小売店や便利施設について、これまでの計画よりも改善を試みている。現代百貨店閉店後はCOEXのように、上層階はオフィス、下層階は新しいブランドの小売施設としてリニューアルする」と説明している。
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