「イカゲーム」にアディダスのロゴはなかった
韓国ドラマを見ていると、不自然な形で商品が“こちら”を向いていることがあります。この「間接広告」(PPL)と呼ばれる手法は、高騰する制作費をまかなうための苦肉の策といわれてきました。しかしOTTの登場に加え、企業自ら優れたコンテンツを世に送り出すという手法も普及して状況が変わったようです。韓国の現状を見てみましょう。(シリーズ3/計5回)
「イカゲームが韓国の放送局で作られていたとすれば、イ・ジョンジェ(ソン・ギフン役)はアディダスのロゴが大きく入ったトレーニングウェアを着ていたはずだ」
米動画配信大手ネットフリックス(Netflix)制作「イカゲーム」の全世界的ヒットを受け、韓国のネットユーザーの間にこんな見解が広がった。つまり、韓国ドラマは過度な間接広告(PPL)から逃れられない、それが限界なのだ、と。
一方で、巨大な資本力を有する海外OTTのオリジナルコンテンツにも最近、PPLがじわりと姿を見せている。OTT間の競争が過熱して収益確保が難しくなり、コンテンツにおける広告効果を考えざるを得ないという判断からだ。
ネットフリックスが2000億ウォンの制作費をかけて作った「レッドノーティス」には、PPLが一つ登場する。主人公のドウェイン・ジョンソンとライアン・レイノルズが出会う最初の場面だ。レイノルズが飲むお酒(ジンブランド「アビエーション」)がPPLだ。
アビエーションは、レイノルズが株主を務めるアルコール飲料のブランド。これは、出演俳優に対するネットフリックス側の好意のフリー広告とされる。だが、ネットフリックスでさえ、もはや“PPLのない領域”ではないことを示している。
ネットフリックスは政策上、有料PPLを受け入れていない。同社は発足初期から「アドフリー(無広告)」原則を掲げ、加入者を集めた。リード・ヘイスティングス最高経営責任者(CEO)は昨年第4四半期(10~12月)の戦略発表の席上、「広告収益は得やすいお金(easy money)だ。広告を通じてラクに儲けようとする戦略は、ネットフリックスの存在価値を傷つける」
それゆえ、ネットフリックスは、コンテンツ会社がPPLによって制作費をねん出するようなことのないよう、全額を支援してきた。だが、そのネットフリックスでさえ、最近になって企業との協力を強化するようになってきたのだ。
広告費を直接受け取るわけではない。コンテンツの中に企業の製品をのぞかせ、その企業にコンテンツの広報を任せるという方法だ。例えば、ネットフリックスオリジナルコンテンツ「ストレンジャー・シングス 未知の世界」にはコカコーラ、KFC、SUBWAYなどのブランドが登場する。これらのブランドがネットフリックス専用メニューを作って販売するなど、コンテンツの広報に乗り出している。昨年6月には自社のオンラインストア「ネットフリックスショップ」をオープンさせ、各種ブランドと提携して製作したグッズを直接販売している。
OTT競争が激しくなり、投資家による収益強化への圧迫が続く限り、ネットフリックスもPPLを拒否できないだろうという見方も出ている。
ネットフリックスは現在、売上の7~8割をコンテンツ確保につぎ込む。昨年も売上高250億ドルの76%に上る190億ドルをコンテンツに投じるという計画を明らかにしていた。
コンテンツ広告効果がますます大きくなっている点も、ネットフリックスを誘惑する。「イカゲーム」のソン・ギフンが履いてきた白い靴によく似た「VANS」のホワイトスリッポンはイカゲーム放映後、売上が7800%激増した。ウォール街では、ネットフリックスがPPLを含めた広告を導入すれば、毎年、約80億~140億ドルの収益を上乗せできると見込んでいる。これは、かのYouTubeの広告収益に匹敵する額だ。
(つづく)