Startup Story ~~ 成功のカギ
ウィリム ペ・ジュノ代表
Instagramの熱烈な利用者だったAさん。だが最近、自慢話や見せかけの文章を毎日、義務的に投稿することに疲れ始めていた。「いいね」とともに、コメントもいくつか書き込まれていたが、“より幸せ”に映る友達の投稿を見て、「相対的剥奪」(期待した状況と現状の間のギャップ)の感覚だけが積み重なっていった。
そんななか、疲れ果てている自分の心のうちを話し、癒される「日記」調のSNSの存在を知った。これを通して同じ悩み、痛みを経験している人と、本音を共有できるようになり、再び自尊心を取り戻すことができた――。
匿名のソーシャル日記アプリ「3行日記」。既存のSNSとは違い、見せかけではなく「自身の本当の話」に集中したコンテンツによって、利用者をとりこにしている。
ただ、3行文章と写真を載せるだけ。やり方は簡単だが、本気度の高い文章を書くには、熟考が求められる。
「正直な気持ちを記録し、匿名で公開することによって会話する空間」。3行日記を開発した「ウィリム」のペ・ジュノ代表はこう説明する。2017年の発表以来、3行日記は累積加入者120万人、月間利用者数(MAU)は30万人を確保した。
ぺ代表はICT(情報通信技術)企業「サムソンSDS」出身だ。社内カップルだった妻とともに退社し、約3000万ウォンを手に400日間、世界を旅した。だが、旅行中でも「何かを残し、記録しなければ」という思いに悩まされた。
旅行よりも記録に没頭してしまい、何も残らないのではないか――こう思った時、妻から「3行だけ書けばどう?」とアドバイスを受けた。これによって記録というものに対する心理的負担を軽減できた。さらに、これが何か良いコンテンツにつながるかもしれないと考え、創業を決意した。
社名「ウィリム」は「意志」を表す英単語「will(ウィル)」と「林(リム)」をかけ合わせた言葉だ。
「InstagramやFacebook、KakaoStoryなど、すべてのSNSは文章を共有するプラットフォームですね。大切なのは、その器にどのようなコンテンツを入れるのか。3行日記は、本音に集中して、悩みと痛みを共有する空間として利用されています」
実際、がん患者や性的少数者、いじめ被害者ら、他人に簡単に打ち明けられない境遇にある人たちが「3行日記」を積極的に活用するという。
「ウィリム」は、個別ではなく「一緒に書く」という日記を通じて、利用者同士が率直な対話ができるようサポートする。日記のコンテンツを集めて本にする「日記本」サービスも提供し、毎月5000万ウォン程度の売上があるという。
「あるスターのファンクラブが、みんなで書いた日記の文章を本にして、そのスターに送ったりしています。新型コロナウイルス感染対策によって会えなくなったクラスメート同士の話、がん患者同士が互いに慰めた内容が本になったりしています。ひと味違った新たな癒しのコンテンツになっています」
ペ代表はこう説明する。
「ウィリム」は「3行日記」利用者のオフライン会合「3行食卓」も進めてきたが、新型コロナ感染拡大以後は中断している。今はオンラインで集まり、同時接続者数は毎回1000人以上に達するという。
同社は韓国拠点のVC「エンライト・ベンチャーズ」やソウル大の技術持株会社の初期投資に続き、米投資企業「ストロングベンチャーズ」や「銀行圏青年創業財団」(D.CAMP)からの投資を誘致した。中小ベンチャー企業省による技術創業支援プログラム「TIPS」にも選ばれ、累積10億ウォン規模の投資を受けた。
「ウィリム」の目標は――「3行日記」を通じて、約100兆ウォン規模に上ると試算されるグローバルなソーシャル・ディスカバリー(自分が必要とする人をSNSを通じて見つけてつながること)市場を攻略することだ。
「ソーシャル・ディスカバリー市場は今、男女、デートアプリを中心に成長していますね。私たちが集中しているのは、率直に対話できる人を探すことです。自分の本心を打ち明けられる友達の需要はとても多いのです」
ペ代表はこう分析する。
2月中に、3行日記に通話機能を新設する計画という。「日記を公開して文章で会話することを超えて、同じ悩みを持つ者同士がすぐに通話できる機能も取り入れる予定です。まずは試験版を公開します」
人が必要とするサービスなら、持ちこたえられる。直ちに大金を稼げなくても、世の中に必要なサービスとして残っていれば、その時になってからでもビジネスモデルの構築は可能だ――ペ代表はこんな信念を持っている。
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