現場ルポ
(1)からつづく
◇目まいがしたVR・AR、今は?
「Unity3D」などのVR製作ツールや、米NVIDIA(エヌビディア)のグラフィック処理装置(GPU)など立体空間の生態系構築に必要な技術が向上した。一方、BTSのような良質の韓流コンテンツ資源、第5世代移動通信(5G)なども合わせた「デジタルニューディール政策」による支援が、韓国のVR・AR産業跳躍の新たな機会を提供する。
仮想空間の構築に必要な技術的条件も向上している。韓国標準科学研究院は最近、VR体験後に起こる、いわゆる「サイバー酔い」を解決する方法を見いだした。ユーザーが感じる「乗り物酔い」の程度を客観的に測定する技術だ。同研究院のイム・ヒョンギュン責任研究員は「乗り物酔いの程度を定量的に評価できれば、乗り物酔いを誘発しない適切なVR機器とコンテンツを作り出すことができる」と説明した。
韓国生産技術研究院は、仮想空間の中でも、現実の動きのまま行動しながら、さまざまな体験型コンテンツを楽しめる「XR体験プラットフォーム」を開発した。実際にコップを持って仮想で水を飲んだ後、コップを割ったりゲームの中の動物をなでたりすることができる。同研究院ヒューマン融合研究部門のクォン・オホン博士は「今後、体験型コンテンツさえ確保できれば、さまざまな訓練、リハビリ治療目的のシミュレーターとしても利用できる。長期的には新しい形のゲーム機器や映像撮影用のXRスタジオにも発展するだろう」と予想する。
サングラスほどに薄いVR眼鏡もまもなく登場する見通しだ。ソウル大工科大のイ・ビョンホ教授のチームは、従来のVRディスプレーレンズに2次元レンズ配列を追加で挿入する形で、VRヘッドセットの大きさを現在の6分の1程度に圧縮した。この技術で作られたメガネ型装置の厚さは8.8ミリにすぎず、1~2年で商用化される見通しだ。
◇VRで都市設計、消防訓練も
ロッテワールドアドベンチャーは2016年、「VRジェットコースター」を初めて公開した。サムスン電子は同年、エバーランド内に「VRアドベンチャー」を設置した。これまで、VR・ARの活用は、テーマパークやファンタジー世界を旅行するゲームなどに限られてきた。今後はさまざまな産業で、新たな形態の事業をつくり出すことが期待されている。
例えば、不動産仲介はもちろん、建築・都市計画・インテリア分野での活用だ。特に人口減少、高齢化、公共交通機関の地域格差など、考慮すべき課題の多い都市計画の場合、VR・ARに基づく「デジタルツイン」が取り入れられる傾向にある。これはデジタル複製モデルで、対象の属性・状態などを仮想空間に反映させ、どのように挙動するか診断・分析し、予測・最適化したモデルを指す。
国土交通省は世宗(セジョン)・釜山(プサン)の「スマートシティ」をデジタルツインで設計した。ソウル市は自治体の中で最初に「バーチャルソウル」という3D地図プラットフォームを提供している。警察・消防士教育など公共サービスの質を高めることにも一役買う。
韓国電子通信研究院(ETRI)は火災現場に似せたVRで、実際に消防用の機具を活用して訓練できる「体験型シミュレーター」を開発した。ETRIのヤン・ウンヨン博士は「新型コロナの拡散に伴い、集合しての教育が難しくなった消防士のために、ネットワークを通じた大規模な仮想訓練を支援することになった」と述べた。
◇国産化の低迷、幾重にも難題
一部ではVR・AR産業の見通しが「見掛け倒しのバラ色」構想にとどまる可能性がある、という懸念がある。サービス利用者の高額負担、キラーコンテンツの不在などによって生態系に警告ランプが点灯したためだ。
韓国科学技術企画評価院(KISTEP)革新戦略研究所の関係者は「ハードウェア、プラットホーム技術の国産化が不振で、キラーコンテンツ・アプリケーション確保のための高額の開発費用などが産業界投資の阻害要因となっている」と指摘した。
また、メーカーごとに3Dの深さ、360度の解析法が異なるため、同じコンテンツでもメーカー別に異なるUI・UX(ユーザー環境・経験)を提供しており、標準化が急がれるという指摘もある。これ以外にも現実と類似したデザインを仮想空間に表現する過程で、著作権や肖像権の問題が発生する可能性も提起されている。
(おわり)
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