「女性家族省廃止」。2022年の韓国大統領選挙を揺るがした象徴的な7文字だった。ユン・ソンニョル(尹錫悦)氏を当選させた重要公約の一つだ。だが、これに関する国会論議は、政権発足から1年たった今も空回りしている。「女性家族省廃止」は果たして実現するのか。
◇当初は「慎重な立場」
女性家族省――女性の権利拡大、地位向上、青少年保護、家族政策を立案する省庁。2001年、革新系のキム・デジュン(金大中)政権(当時)下で発足した「女性省」が前身だ。
ただ、他の省庁と重複する業務が多いうえ、役割・権限があいまいとされる。組織名に「女性」が入っていることが疑問視されることもある。
こうした状況のなか、2021年10月、当時野党だった「国民の力」で、大統領選の予備選挙が進められていた。
その時、ユン候補は、次のような公約を打ち上げた。
「女性家族省を『両性平等家族省』に改編し、女性と男性に対する支援をともに進めなければならない。業務がおそらく従来より増えるのではないか」
それまで、ユン候補は女性家族省廃止に慎重な立場だったのが、それを翻した。
◇当選後、公約に
韓国ではこのころ、フェミニズムに否定的な傾向を持つ20代男性(イデナム)の存在感が高まっていた。
当時の「国民の力」代表は、30代半ばのイ・ジュンソク(李俊錫)氏だった。イ・ジュンソク氏は女性家族省について「いま形で存在を続けるべきなのか」と疑問の声を上げてきた人物だ。
ユン候補は「廃止」に転じる直前、イ・ジュンソク氏と協議し、20代の支持層の取り込みを狙ってイデナムをひきつける公約を掲げたのだ。
大統領選では、ユン候補の「女性家族省廃止」公約が、たびたびテレビ討論で攻撃の対象となった。ユン候補は「性認知予算を削減して国防費に使う」「構造的な性差別はない。差別は個人的な問題だ」などと発言したことから、当時の与党「共に民主党」のイ・ジェミョン(李在明)候補や革新系野党「正義党」のシム・サンジョン(沈相奵)候補から批判された。
しかし、ユン候補は最後まで女性家族省廃止の立場を崩さず、昨年3月の大統領当選後、ついに公約として採択した。
◇「不意打ちを食らった」
大統領職引き継ぎ委員会の発足後、この公約は継続して議論の的になった。
引き継ぎ委は、国政課題110件のうち「女性家族省廃止」を除外し、キム・ヒョンスク(金賢淑)次期大統領政策特別補佐官(当時)を女性家族相候補者に指名したのだった。
国会で政府組織法処理問題が難航している状況と、その後に控えていた地方選挙での逆風を意識した――この見解が説得力をもって受け止められた。
アン・チョルス(安哲秀)引き継ぎ委員長(当時)は「政府組織改編案を引き継ぎ委で扱わないという方針に従ったものだ」と語ったが、イデナムの間には「不意打ちを食らった」という声も上がった。
(つづく)
(c)MONEYTODAY