韓国の血液不足は今後、さらに深刻になりそうだ。低出生率のため人口が減り、献血する人も減るためだ。将来の人口推計によると、低出生・高齢化で、韓国の献血可能人口(16~69歳)は、今年の3917万人から減少を続け、2050年には2758万人(約30%減少)となる見通しだ。
一方、高齢化の加速で医療需要が増え、赤血球製剤の使用量は増加している。2015年には189万ユニット(Unit、1ユニット=400cc)だった赤血球製剤の使用量は、2019年に200万ユニットに増えた。
◇今年から需給が「深刻段階」に
さらに、今年から血液需給が「深刻」な段階に入る可能性もある。大韓赤十字社の献血人口推計によると、今年の献血人口数は197万3650人とみられる。これにより、1日平均5407ユニットの血液が献血で供給されるものと予想される。しかし、これは今年の1日平均の血液所要量予測値である5482ユニットより少ない。これは、血液需給危機段階のうち「深刻」(1日分未満)に相当する数値だ。
大韓患者血液管理学会のキム・テヨプ会長(建国大学病院麻酔痛症医学科教授)は「献血では、血液供給不足を避けられない」と強調し、医療現場で血液使用量を劇的に減らす必要があると指摘した。血液「供給」より「需要」の管理に焦点を合わせた政策が必要だということだ。
韓国で膝関節(膝)手術の輸血率は78%だ。米国(8%)や豪州(14%)と比べると、圧倒的に高い。心臓手術の輸血率も76~95%に達する。米国では29%に過ぎない。
手術時にどれだけ血液が使われるのか▽輸血を避けるための事前措置は取られたのか▽不適切な輸血慣行がないか――などを評価・監視する体系の導入は既に議論が始まっている。このすべてを網羅する概念が「患者血液管理」(Patient Blood Management・PBM)だ。
PBMは、2019年に血液管理法が改正され、医療機関に「輸血管理委員会」の設置が義務化されて国内に導入された。しかし、依然として一線の医療現場ではPBMが定着していないようだ。
キム教授は「輸血管理委員会は血液供給や廃棄率管理だけに気を使っている。血液が適切に使用されているかの監視はおそろかになっている。設立趣旨と目的に合わせ、輸血管理委員会の名前を『患者血液管理委員会』に変え、医療現場での血液使用に関する詳細な資料を政府が確保しなければならない」と指摘する。
◇人工血液・新薬の使用拡大
血液不足を防ぐために多様な長・短期的な対応策が提示されている。代表的なものとして、医療現場での輸血の頻度を減らすための、薬剤へのアクセスの改善がある。
貧血患者が手術前に、高用量鉄分剤や、赤血球をつくる造血剤を接種すれば、輸血を避けることができる。しかし、これらの薬剤は、健康保険がまだ適用されないか、実際に医療現場で使用する際に報酬が削減される問題がある。医療スタッフが使いたくても使いにくい環境にあるわけだ。
順天郷大学病院のイ・ジョンジェ病院長は次のように説明する。
「静脈鉄分剤に健康保険が適用されないため、患者の負担が大きすぎる。造血剤の使用も輸血と比べると価格が高い。血液1パックが保険適用で8万ウォン(1ウォン=約0.1円)にも満たないが、造血剤注射を一度受ければ15万~30万ウォンだ。患者の立場としても、輸血する方が負担は少ない。医療スタッフも簡単に輸血を選択しがちだ」
血液がん患者の輸血を減らす新薬「レブロジル」も対策の候補に挙げられる。
レブロジルは、骨髄異形性症候群(MDS)の治療剤で、昨年、国内で認可され、4月に発売された。MDS患者は3~4週間おきに輸血を受けなければならないが、このため生活の質の低下が大きい。6~7年間、持続的に輸血を受ける患者もいる。レブロジルは患者の輸血頻度を減らすことができ、発売前から注目されてきたが、現在、健康保険未適用で広く使われていない。
長期的な対応策としては「人工血液」の研究・開発(R&D)がある。韓国政府は今年から2027年まで471億ウォン(約50億円)をかけて「細胞基盤人工血液」技術の開発に乗り出す。2032年から人工赤血球・血小板製剤を大量生産する体制を構築する。2037年には人工血液が実際に使用できるものと期待される。
(つづく)
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