韓国の流通業界が仮想人間を全面に出したマーケティングに力を入れている。仮想人間「ルーシー(Lucy)」や「ロージー(Rozy)」は引く手あまたで、著名な芸能人をしのぐ「広告クイーン」に躍り出た。
◇MZ世代の獲得目指し
芸能人と違い、プライバシー問題によるリスク負担が少ない――仮想人間は当初、この点が注目された。だが、いまは仮想空間に慣れたMZ世代が熱狂したため、「バーチャル・インフルエンサー・マーケティング」が強化されるようになった。SNSを中心に、強力な影響力を発揮し「重要な消費層」として浮上しているMZ世代を獲得するためだ。
業界関係者によると、ロッテホームショッピングが独自に開発した仮想人間モデル「ルーシー(Lucy)」が今月22日、テレビのホームショッピングで“ショーホスト”としてデビューし、初めてその声が公開されて話題になった。容姿や職業などの特徴を考慮して声質が選ばれ、口の形が発音通りに動くよう、高度な技術を使ってリアリティーを高めた。
クリスマス特集展を紹介する10秒の映像が流れた後、「人に似た発音、表現が自然で新鮮」「テレビショッピングではなくメタバースを体験しているようだ」など多様な反応が出た。
ロッテホームショッピングはルーシーの顔をデザインする際、MZ世代が好む特性を組み合わせた。年齢や職業は、MZ世代のほかホームショッピングの主要な顧客層である40~60代にも対応できるよう設定した。ルーシーのインスタグラムのフォロワーは7万人に上る。
ロッテホームショッピングは今年2月、メタバース事業の一環としてルーシーを発表し、マーケティング効果を実感している。10月にはロッテホームショッピングの代表的なショッピングイベントの広報モデルに選ばれ、話題になった。過去にはパク・セリやソン・ガインというインフルエンサーが務めていたが、今年は仮想人間を前面に出した。ルーシーが参加した広報映像の再生回数は220万を突破した。
◇ビューティー広告でも台頭
仮想人間「ロージー(Rozy)」は「22歳のインフルエンサー」で約11万人のフォロワーを抱える。今年7月の「新韓ライフ」のテレビCMで有名になった。関心事は世界旅行、ヨガ、ファッション、ランニング、エコライフなどだ。昨年8月、「サイダススタジオX」が、MZ世代らが最も好む顔型を集め、3D合成技術で作った。ロージーは「活動初期の仮想モデル」とは思えないほど、現実的なルックスで注目された。
ロージーはトップスターだけを使うといわれたビューティー広告でも台頭した。「アムーレパシフィック」の化粧品ブランド「ヘラ」は4月からロージーを前面に出し、SNSでのマーケティングを進めている。
ロージーが着用したハンドバッグも話題になった。「ジルバイジルスチュアート」(JILLBYJILLSTUART)は今年9月、ロージーと専属モデル契約を結び、グラビアで「レニーバック」を披露した。レニーバックは売上が好調で、ひと月で2度の再生産に入った。
「Wコンセプト」も今年10月、ロージーを公式アンバサダーに抜擢した。その後、Wコンセプトのホームページで先月、「ロージーが現実世界で見つけたコンセプト」というテーマのグラビアを披露し、アプリ訪問者が50%増加し、売上が伸びる効果を見せた。「メイクアップ・ユア・コンセプト」(WAKE UP YOU CONCEPT)ブランドキャンペーンと連携した広告は280万ビューを記録した。
「GSリテール」も先月、ロージーと専属モデル契約を結び、25日に人気商品を50%大幅割引するイベントを発表している。GS25は来年も毎月25日、ロージーを主人公にしたイベントを開く予定だ。
◇他のインフルエンサーと変わらない行動
米ブルームバーグ通信は、仮想インフルエンス市場規模が昨年の2兆4000億ウォン(約2321億円)から25年は14兆ウォン(約1兆3539億円)に拡大すると予想した。これは実際の人間のインフルエンサーの規模(13兆)を上回る。
仮想モデルとして活用すれば▽プライバシーへの懸念なく危機管理が容易▽新型コロナウイルスの感染拡大の状況でも国境や時間に制限はなく、全世界で活動できる――などが強みといわれている。SNSを通じて日常を共有し、書き込みでコミュニケーションするなど、ほかのインフルエンサーと変わらない行動を見せていることも魅力だ。
何より、企業側は仮想人間を通して「核心消費層」として浮上しているMZ世代への共感を拡大する役割に注目している。メタバースの仮想世界に慣れているMZ世代は、専攻や職業などによりそれぞれの世界観を持ち、SNSを通じてコミュニケーションに熱狂するからだ。
実際、ロージーはマーケティング活動はもちろん、エコ活動にも積極的であり、MZ世代の注目を集めている。ロージーは最近、国際NGOグッドネーバーズの「大丈夫ですチャレンジ」に参加して「毎年暑くなる地球のためにストローは断っても大丈夫です」と書き、今年5月には韓国初の詰め替えステーション「アルメン商店」を訪れたりもした。日常生活で「ゼロ・ウェイスト」(無駄・浪費をなくす)を実践する方法を紹介した。
技術の発達により、本物の人間のように見えるという点も仮想人間との距離感を縮める要素だ。
ルーシーは、既存の仮想モデルが活用する人工知能(AI)ディープラーニングで作るディープフェイク方式ではなく、撮影したイメージに仮想の顔を合成する3Dアセット技術を適用し、産毛まで繊細に表現して魅力的に仕上がっている。
ロッテホームショッピングは、来年中に「リアルタイムレンダリング」技術を基礎に、人と双方向のコミュニケーションを取ることができるよう、仮想モデルを高度化する計画だ。従来の写真や映像中心の仮想モデルの限界から脱し、メタバースプラットフォーム内でのライブ活動など、リアルタイムでのコミュニケーションが必要な分野にも活動を拡大する方針だ。
業界関係者は「新型コロナにより非対面ショッピングが日常化し、仮想環境を活用したデジタルサービスに対する関心が高まってる。同時に、3次元の仮想世界に現実を取り入れるメタバースマーケティングも拡散している。仮想人間を活用して、トレンディで未来志向的なマーケティングを展開し、MZ世代との意思疎通を競うという流れは続くと考えられる」と話している。
©NEWSIS