韓国の人気グループ「BTS(防弾少年団)」のJIN(ジン)が13日、北朝鮮との軍事境界線に近い京畿道(キョンギド)漣川市(ヨンチョンシ)の陸軍第5歩兵師団の新兵教育隊に陸軍現役兵として入隊する。韓国ではBTSへの兵役特例議論によって、大衆芸術に適用されない現在の兵役特例の問題点が浮き彫りになり、韓国政界に問題解決を促す声が上がっている。
◇関係機関、不測の事態に備え
メンバー最年長のJINは今年が満30歳となる1992年生まれ。5週間の訓練を受けた後、最前線部隊に配属される見通し。
同じ日に入所する新兵は約200人。新兵教育隊の敷地内に駐車場があるため新兵の大半は車で入るといい、JINも同様の行動を取るとの観測が出ている。中に入ることができるのは、入営通知書を所持した新兵本人と家族に限られる。
BTSの所属事務所ビッグヒットミュージックは13日に特段のイベントを予定しておらず、JIN本人も安全上の理由からファンには訪問を自制するよう呼び掛けている。
ただBTSファンらが新兵教育隊周辺に集まる可能性があることから、韓国軍当局と地方自治体、警察、消防などの関係機関は警戒態勢を取って不測の事態に備える。
◇いまも休戦状態
韓国と北朝鮮の間では朝鮮戦争(1950~53)は今も休戦状態にある。韓国では男性に兵役義務が課せられ、入隊条件は兵役法によって定められている。ただ、国威宣揚や文化の発展に寄与した芸術家やスポーツ選手には代替服務(事実上の徴兵免除)が認められる。
BTSメンバーの入隊(=活動休止)期限が迫るなか、クラシックや国楽など「純粋芸術」の国際大会での優勝者だけでなく、世界的な活躍が認められた大衆芸能分野のアーティストにも兵役特例を認めるべきだという意見が噴出した。
韓国国会は2020年12月1日、こうしたアーティストの軍隊への入隊を30歳まで延期できるよう兵役法を改正した。文化体育観光相から「韓国の国際的地位を高めるために貢献した」と推薦を受けたアーティストは兵役時期の延期ができるようになり、BTSにもこれが適用されてきた。
今年末までのJINの入隊が迫るなか、韓国では大衆芸能分野のアーティストへの兵役特例論議が再燃。「世界的な人気で韓国のブランドイメージを高め、経済的な貢献度も大きい。BTSの持続的な活動を保障するため兵役特例が必要だ」「純粋芸術が認められて大衆芸術がダメなのは不公平だ」という容認論と、「公正性を保つべきだ」「兵役要員が減っている現実を考慮せよ」という反対論の間で世論は揺れた。
そして10月中旬――。BTSが出演した「2030世界博覧会誘致支援のための釜山コンサート」が終わったのを見計らって、ビッグヒットミュージックが「JINの延期取消願提出」を発表した。延期を適用されている者がその期間が終わる前に軍隊に行く場合、取消願を提出する必要があり、JINはこの手続きに従った。ビッグヒットミュージックはこの時、「他のメンバーも各自の計画により、順次兵役を履行する」と明らかにしていた。
◇政界の「時間稼ぎ」に苦言
韓国メディア「MONEYTODAY」デジタルニュース部のソン・ジョンリョル部長は「BTS入隊で終わりにするな」というコラムで「これまで、BTSの代替服務のための兵役法改正案が発議されては廃棄になることを繰り返した」と指摘したうえ「政界が反対世論を恐れて、時間稼ぎをしてきたためだ」と批判した。
BTSメンバーの入隊をもって、大衆文化芸術家の兵役特例問題が解決されたわけではない。グローバル音楽賞を席巻する「第2のBTS」が登場すれば、また同じ論争を繰り返すことになる。
ソン・ジョンリョル氏は大衆芸術家の活動を「K-カルチャーの競争力を強化する触媒の役割」と考える。国家イメージ・信頼度を高めるなどの経済効果もあり、「半導体に劣らない韓国の未来の成長産業になり得る分野」とみる。そのうえで「大衆芸術家に対する兵役特例適用は1日も早く実施されるべきだ。必要なのは、さらなる論争ではなく、政界の決断だ」と促している。
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