ソウル・梨泰院(イテウォン)雑踏事故をめぐり、各国から韓国の「安全不感症」に対する指摘が相次いでいる。新型コロナウイルス感染で息をひそめていた旅行心理が蘇るなか、K-観光の強みの一つだった「安全な旅行先」が傷ついた。外国人観光客誘致のための水面下の競争が激しい状況で、場合によっては観光の競争力が落ちかねないという懸念も出ている。
BTSに代表されるK-POPとK-クラシックの人気で盛り上がった公演市場も非常事態だ。狭い空間に大規模な群衆が密集して起きた今回の事故の性格が、大規模コンサート、祭りで起きる安全事故と似ているためだ。韓国政府は観光・公演生態系の正常化のため、死角地帯の点検に乗り出す。
梨泰院は留学生や観光客ら外国人がよく訪れる代表的な観光名所だ。中央災難安全対策本部によると、今回の事故でなくなった156人のうち外国人は26人。過去に起きた大事故と比べて外国人の割合が特に高い。
実際、韓国文化観光研究院の外来観光客実態調査によると、梨泰院は、ソウル明洞・南大門や新村・弘大周辺、釜山・海雲台一帯などに続き、2019年に韓国を訪れた訪韓外国人観光客が選んだ最も印象的な訪問地だ。同年のウーバーコリアの調査によると、外国人がインターナショナルタクシーを利用して最も多く乗り降りした場所としても、南山ケーブルカー駐車場と明洞に続き、梨泰院は3位だった。
今回の事故の余波が訪韓観光市場の回復にも悪影響を与えかねないという観測が出ている。
特に梨泰院を背景にしたドラマ「梨泰院クラス」は米動画配信大手ネットフリックス(Netflix)を通じて世界で放映され、韓国と言えば思い浮かぶ場所として浮上した。今回の事故が発生したハミルトンホテルの隣の路地もドラマに出て、日本・東南アジアの10~20代観光客に馴染みのある場所として挙げられている。
一部では「安全でない国」との烙印を押される恐れがあるという懸念も出ている。
韓国は今年、世界経済フォーラム(WEF)の「観光発展指数評価」で117カ国のうち「安全(Safety and Security)」部門16位となるなど、外国人も安心して旅行できる場所として認識されてきた。しかし、外国メディアを中心に、今回の事故が「地方自治体と警察などの安全不感症で発生した人災」という指摘が続き、こうしたイメージが損なわれるのではないか、というのが観光業界の見方だ。
あるインバウンド(外国人の国内旅行)会社の関係者は「今回の事故が世界的に注目され、韓国が安全でない国と認識されかねない。観光とは『行っても大丈夫か』という心理が重要であり、否定的イメージは打撃が大きい」と指摘する。
エンデミック(感染症の風土病化)とともにエンジンがかかり始めた公演市場や地域の祭りも低迷しかねないという声もある。文化芸術公演や祭りも大規模な群衆が狭い空間に集まる可能性があるという点で、今回の事故と類似した状況が発生する可能性があるためだ。
災難安全専門家である延世大のチョ・ウォンチョル名誉教授は「今回の惨事は梨泰院だけで起きる事故ではない。大規模な群衆密集に伴う被害は人々が集まる所ならばどこでも起こりうる」と話した。
過去にも2005年、慶尚北道の市民運動場で開かれた歌謡コンサートに観客5000人が集まり、11人が圧死、160人が負傷した。2014年には京畿道城南の野外公演場で換気口カバーが崩れ、観覧客16人が死亡するなど安全事故が続いている。
文化体育観光省など関係当局は、事故防止のために「公演法」改正、3000人以上の時だけ申告していた災害対処計画書提出基準を1000人以上とするなど安全管理規制を強化した。だが、行政安全省の「災難および安全管理基本法」では、地域祝祭公演時の関連報告基準が依然として3000人と異なるように規定されており、明確なマニュアルが必要だという指摘だ。
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