米動画配信大手ネットフリックス(Netflix)のドラマ「イカゲーム」により、アジア国籍の監督として初めて、エミー賞監督賞を受賞したファン・ドンヒョク(黄東赫)監督。幼いころ、路地でイカゲームなどをして遊んだ韓国的経験をドラマに溶け込ませ、それが普遍的なものとして世界に受け入れられた。誰もが共感できる物語を描きつつ、浮かび上がらせたのは「社会の不条理」だった。
◇社会問題を考えさせる作品
ファン・ドンヒョク監督は1971年にソウルで生まれた。
ソウル大新聞学科(現言論情報学科)在学当時、実は記者を夢見ていた。社会問題に関心が高く、学生時代はデモにも頻繁に通った。
しかし、現実社会に向き合うのに疲れ、次第に映画に関心を持つ。米サザンカリフォルニア大(USC)に飛び、映画を勉強するようになった。
ただ、社会問題と距離を置きたいと考えて始めた映画において、ファン・ドンヒョク氏は、逆に社会問題を扱うことになる。
デビュー作となった2007年の映画「マイファーザー」は、死刑囚となった父親を約20年ぶりに訪ねた養子アーロン・ベイツの実話を描いた。
興行的には成功しなかった。だが、これが韓国現代史の構造的な問題を探る契機となった。
2011年の映画「トガニ」は、累積観客数466万人を集めて興行に成功したのはもちろん、社会的にも大きな問題を投げかけた。
作家コン・ジヨン(孔枝泳)氏の小説を原作に、光州(クァンジュ)の聴覚障害特殊学校で実際に起きた生徒への性的暴行事件を扱った。ファン・ドンヒョク氏は映画を通じて、不都合な真実に正面から向き合い、そこから良心を引き出して見せた。
2014年に累積観客860万人を集め興行に大きく成功した映画「怪しい彼女」では、70歳のおばあさんの魂が宿った20歳の女性の物語を展開し、商業的なセンスを証明した。
笑いのコードがふんだんなコメディー映画だが、韓国社会が避けて通りがちな高齢者問題を取り上げ、考える契機を作り出した。
2017年に累積観客384万人を集めた映画「南漢山城」は時代劇の形を取りながらも、政治的大義と国民の命をめぐる葛藤と庶民の人生を描き出した。
◇「シーズン2で戻ってくる」
ドラマ「イカゲーム」はファン監督が、これまで抱えてきた問題意識の総集編と言え、社会的矛盾の中で疎外された者の連帯などを扱った。
いわゆる「X世代」(1960年代後半〜70年代)に属するファン監督は、社会的矛盾と文化的自由の間に挟まれた混沌の時代を過ごし、多様な断層について考えさせられてきた。
2008年に構想を始めた「イカゲーム」は、社会の断層を溶かし、時代精神を浮き彫りにした力作になった。
当初、映画として脚本を書いたが、難解で奇怪だという指摘を受けた。だが、新型コロナウイルス感染などの試練によって格差が世界的な問題としてより深刻化するにつれ、これに対する隠喩である「イカゲーム」シリーズは同時代のどの作品より、視聴者の納得感を引き出すドラマになった。
ファン監督はエミー賞監督賞を受賞した後、こう宣言した。
「私一人でやったのではなく、みんなで歴史を作った。これがわれわれの最後のエミー賞でないことを願う。われわれはシーズン2で戻ってくる」
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