同姓同本の結婚禁止制 (上)
短期間で急激な発展を遂げた韓国社会には、歴史の転換点で示された数多くの判決があります。そのうちの20件を通して、韓国社会の「時代精神」がどう変化を遂げたのか探ってみました。(シリーズ3/7)
韓国では、儒教思想が色濃く染み込んでいた20世紀末まで、「姓」と「本貫」が同じ「同姓同本」の結婚が禁止されていた。
韓国では「姓」は父系の血統で決まる。「本貫」は一族の先祖の出身地を示すもの。いわば“家系の根っこ”だ。「同姓同本」とは、たとえば、同じ「キム」姓でありかつ、同じ「根」を持つということになる。
男性の姓を受け継ぐ慣習の中の血族――という認識から、同姓同本は「近親婚」とみなされていた。
生物学的根拠のない儒教思想のなごりで、多くの人々が数十年間、自身の権利を制約されてきた。医療保険や家族手当、相続、税金控除などの面で、不利益に耐えなければならなかった。
婚姻届も出すことができず、子供を婚外子として戸籍に載せなければならなかった。
◇自らを相手取って訴訟
Aさんは1996年、愛する人と結婚するために自分の姓を捨てて「パク」という架空の人物になった。「同姓同本」男女の婚姻禁止規定を適用されるのを避けるためだ。
姑の知人であるパク氏の娘として出生届を出し、その事実を語らずに生きてきた。
そのA氏は70代になって、再び苦しむことになった。
二重の戸籍を持つ自分が亡くなれば、子供たちが遺産相続で混乱する。このことが心配になり、夜も眠れないというのだ。
悩んだ末、Aさんは自らを相手取って「セルフ訴訟」を起こした。姑の知人のパク氏と自分の間に実子関係がないことを確認してほしい――裁判所にこう訴えたのだ。Aさんが自分の名前を取り戻すのに、40年を費やした。
Aさんのケースは2009年に法律救助公団の支援を受けた実際の事例だ。
婚姻届を出せずに公務員遺族年金を受給できなかったり、知人や親戚の戸籍に自分の子供を記載しなければならなかったりと、ドラマのようなことがわずか20年前まで、一度や二度ならず起きていた。
同姓同本違憲審判は、慣習法が憲法上の基本権と衝突した代表的事例に挙げられる。
父系血族中心の男女不平等な家族法の各種制度改正の糸口となった判決、という評価にもつながっている。
◇中国・北朝鮮も早期に破棄
同姓同本結婚禁止規定は1960年にさかのぼる。
韓国民法は建国直後の1948年に制定作業に入り、1958年に制定された。公布期間を経て1960年1月1日から施行された。当時の民法809条第1項は「同姓同本人血族の間では婚姻できない」と明示していた。
世界中で、同姓間の結婚禁止を法で規制する国は韓国が唯一だった。
儒教的な同姓同本結婚禁止の出発点となった中国でさえ、1931年に廃止され、北朝鮮でも1948年の人民共和国樹立とともに禁止制度は消えた。
この民法条項によって、韓国では同姓同本の夫婦が実質的に婚姻生活を営んでも、法的には認められなかった。家父長的文化が強かった当時の社会の中で、同姓同本の夫婦もこれを問題化するより、不利益に自ら耐える選択をした。
◇保守層の激しい反対
民法施行後、時間が経てば経つほど、同姓同本間の婚姻事例は着実に増えた。
人口が爆発的に増加し始め、同姓同本間の結婚も大きく増加した。そして解決策を促す声が少しずつ出始め、同姓同本の結婚禁止規定に手を加えなければならない、という問題提起が続いた。
ただ当時は、保守層の激しい反対を受け、同姓同本結婚禁止規定は40年近く維持された。政府と立法府も「生ぬるい対応」しかできず、「婚姻に関する特例法」を制定して▽1977年(4577組)▽1988年(1万2443組)▽1996年(2万7807組)の3度にわたり、事実婚状態の同姓同本夫婦の婚姻届を受け付け、救済するにとどまった。
tvNドラマ「応答せよ1988」(2015~16)でも、このような当時の雰囲気を垣間見ることができる。
ドラマの中で、ソン・ソンウ、ソン・ボラのカップルは、同姓同本という理由で、家族の激しい反対に直面する。ソン・ボラが「来年、同姓同本結婚を一時的に許可するそうだ。国会で法案を準備中だって」と笑う場面が出てくる。
だが、同姓同本に対する「憲法の男女平等に反して、各種基本権の侵害が深刻だ」という批判は、社会の変化によって次第に力を持ち始めた。
これに支えられ、婚姻届を拒否された同姓同本夫婦8組が1995年、ソウル市冠岳区長を相手取り、ソウル家庭裁判所に不服を申し立てた。その結果、同年5月17日には、家裁は憲法裁に違憲審判を請求する流れになったのだ。
社会問題に関するメッセージを盛り込んだ曲を多数発表した故シン・ヘチョル氏。自身が属したロックグループ「ネクスト」を通じ、1995年に「苦しんでいる恋人たちのために」という曲を発表した。
同姓同本結婚禁止規定を扱ったこの曲は、当時、違憲審判請求と相まって、大きな社会的議論を巻き起こした。
(つづく)
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