現場ルポ
◇バスに車椅子を固定できない「困惑」
バスにも問題があるのは同じだ。
最新資料である国土交通省の「2020年・交通弱者(体の不自由な方)実態調査報告書」を見ると、全国にあるバスのうち低床バス普及率は27.7%水準だ。
障害者は停留所でバスを複数台見送るのが常だ。車椅子だと背も低くなり、バスの運転手が障害者を確認できず、通り過ぎてしまうことも数えきれないほどという。
低床バスに乗車しても問題が多い。乗客がいっぱいのバスは、車椅子専用席に行くこと自体が難しい。老朽化のため、車椅子を固定できないバスも多い。
脳性麻痺のため車椅子を利用しているペ・ジェヒョンさん(44)は「そんな時は周囲の乗客の了解を得て、何にでもしがみつくしかない」と話す。
視覚障害者は、バスの利用そのものをあきらめることが多い。
障害者団体「全国障害者差別撤廃連帯(全障連)」の活動家で視覚障害者のパク・スンギュさんはこう解説する。
「バス停ごとに“次に到着するバスは〇番”という音声案内はある。でも、バスは案内された通りの順序でやってこないので、同行者なしで利用するのは難しい」
代替手段として「障害者コールタクシー」が導入された。だが待ち時間があまりにも長く、障害者たちは敬遠している。2020年のデータでは、全国に配車された障害者タクシーは2万8912台。歩行が難しい障害者70万人余りの4%程度だ。ペ・ジェヒョンさんは「コールタクシーを呼んでも、だいたい1時間以上、待たされる。もう利用するつもりはない」と話している。
◇デモではなく「障害者の地下鉄乗車」と呼んでください
全障連の地下鉄乗車デモは、3月30日でしばらく中断となった。市民に不便をかけているというのが最大の理由だ。「デモをするなら国会でやってくれ、なぜ市民の地下鉄をふさぐんだ」。デモ参加者らは市民から、こんな抗議を受けた。
自分たちの要求を知らせるための「最後の手段」だった――障害者らは今回のデモをこう位置づける。全障連のチョン・ダウン政策室長は「今回のデモで、ようやく市民の目に『車椅子に乗った障害者の姿』が見え始めた。誰も知らなかった問題が明らかになった」と指摘している。
ペ・ジェヒョンさんはこんな話をしていた。
「過去20年間、政治家たちに面談を求め、政策を要求をしてきた。でも、政治家たちは“何年までにこれをする”と約束だけして、平気でそれを破ってきた。そんな政治家たちに“公共交通を利用したい障害者がこんなにたくさんいるんだ”という事実を知ってほしかった。今回の闘いを、デモではなく、“障害者の地下鉄乗車”と呼んでほしい」
障害者がデモに出ると、国土交通省は最近、「交通弱者制度改善研究」を発注した。低床バス導入義務化のための施行方法を検討し、先進国、国際基準と比較してバリアフリーの設置基準を整備する計画だという。
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