あんなにたくさんいたバイト、どこへ行った?
韓国で求人難が深刻になる一方で、配達アプリケーションなどの労働者はあふれています。決まった職場にとどまらず、スマホ一つを持ち歩きながらお金を稼ぐ「デジタル・ノマド(遊牧民)」。その姿を追いました。(シリーズ1/5)
◇70代も「上納金がいるタクシーはNO」
70代の法人タクシー運転手のAさんはまもなく仕事を辞める。昨年まで一緒に働いていた同僚から「配達をやってみてはどうか」と勧められたからだ。
タクシー会社に勤めても、得られるのは月に200万ウォンがやっと。だが、配達は違う。頑張れば1000万ウォンも稼げるというのだ。
「最初は“この歳でどうやってバイクに乗るのか”と断った。でも、聞けば、“自動車でもOKだ”というではないか。それで移ろうと思った。タクシー運転手をやめる人は本当に多い」
Aさんはこんな話をした。全国タクシー運送事業組合連合会によると、法人タクシー運転手は、この2年間で27%も減った。今年2月現在、7万4754人に過ぎない。
ソウルのある中学校に勤める栄養教諭Bさんも、人が見つからず悩んでいる1人だ。Bさんが勤める学校は教室で配膳をする。この時に、生徒らのご飯やおかずを教室まで持っていく「給食アシスタント」が見つからない。
「3~4年前は給食アシスタントの応募書類が20~30枚届き、どうやって選べばいいかが悩んでいた。だが、今は志願書が1~2枚しかない。学校に縛られず、給料も良い『配達』に人が取られている」
Bさんはこうため息をついた。
いわゆる「3D」(日本で言う3K、Difficult・きつい、Dirty・汚い、Dangerous・危険)業種――相対的に勤務環境が劣悪で、待遇の悪い事業所が人手不足で困っている。
新型コロナウイルスの感染防止のために導入されたソーシャルディスタンス規制が解除された。再び客が殺到する中で、これに対応する人材が見当たらない。相対的に時給の高い配達など、いわゆるプラットフォーム雇用の方に求職者が殺到しているのだ。
◇「長距離配達を1日に2件すれば食べていける」
韓国雇用情報院によると、韓国政府が運営する就業情報サイト「ワークネット」で今年3月、新規求人数は30万6491人。昨年同期比で25.8%(6万2881人)増えた。一方、新規求職件数は45万3284件で、むしろ7%減少した。
全体で見れば、求職件数が求人数より多い。ただ、業種別に見ると事情が異なる。
製造単純職は求人数が求職者より2万4568人多い。「金属・材料の設置、整備、生産職」や「機械の設置、整備、生産職」も、求人数が求職者よりそれぞれ1万859人、1万301人多い。
求職者数を超える求人数は、このほかに▽化学・環境設置・整備・生産職(7099人)▽農林漁業職(4581人)▽清掃およびその他サービス職(2534人)▽印刷・木材・工芸設置・整備・生産職(2069人)▽建設・採掘研究開発職や工学技術職(1472人)▽繊維・衣類生産職(831人)――の順で多かった。
勤務環境が劣悪なほど、求人数と求職者数の格差が広がる――こんな傾向がうかがえる。
求職需要は、主に配達などのプラットフォーム労働に集中する。雇用情報院によると、昨年下半期、狭義の国内プラットフォーム労働者は約66万人だった。詳細な基準は異なるが、2020年に韓国労働研究院が推定した22万人より大幅に増えた。
韓国労働研究院のソン・ヨンジョン研究委員はこう解説する。
「プラットフォーム労働の増加が、求人難と全く関係がないとは言えない。若年層は事務所に詰めて出勤するより、柔軟な働き方に慣れている。だから容易にプラットフォーム労働に転職するのだ」
1年間勤めていた中小企業を今年3月に退社したCさん(30代前半)。
「車で長距離(20~30キロ)の配達に行けば、1件当たり5万ウォンずつもらえ、日に2件程度の配達をこなしながら暮らしている。ずっと配達で生計を立てるつもりでもなく、近いうちにショッピングモールを創業する」
Cさんが会社を辞める決断を容易にしたのは「会社を辞めても配達をやれば、ある程度は耐えられる」という点だそうだ。
ただ、プラットフォーム労働者の所得は、実態は厳しいものだという指摘もある。
韓国労働社会研究所は昨年10~12月、宅配、家事、飲食配達などプラットフォーム労働者214人を対象に調査した。
その結果――プラットフォーム労働者の平均月収は346万ウォンであることがわかった。移動のための燃料費や保険料などを差し引いた純収入は125万2000ウォン。今年の最低賃金(9160ウォン)から計算した月所得191万4440ウォンに及ばない。
(つづく)
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