米ニューヨークで2月14日、ファッションウィークのラインナップが発表された時―――。メインステージのランウェイに予定されたコレクション名に、ファッション業界の関心が集まった。
「GREEDILOUS by Tilda(ティルダ)」
韓国のファッションブランド「GREEDILOUS」のデザイナーはパク・ユニ氏のはずだ。「ティルダ」とは、いったい誰なのか……。その“正体”をめぐり、さまざまな憶測が飛び交った。
そして「ティルダ」がランウェイに姿を現した――しかもLED画面だった。
そうかと思うと、デザイナーのパク・ユニ氏との対話が始まった。テーマは「環境」。パク・ユニ氏が「花を描きたいわ。金星に咲いた花を」と言うと、その画面には、ティルダが創作したイメージがいっぱいに広がった。
「ティルダ」とは――韓国LGグループの人工知能(AI)シンクタンク「LG AI研究院(LG AI Research)」が昨年12月に公開した超巨大AI「EXAONE」によるAIアーティスト。言語だけでなく、イメージや映像まで、多様な情報を習得して扱うマルチモダリティ能力を備えている。世界最大水準のコーパス6000億個以上、テキストと結合された高解像度画像2億5000万枚以上のデータを学習し、これまでの仮想人間とは異なり、人間のように自ら判断し、思考する能力を備えている。
過去になかったものを創作し、人間と自然なコミュニケーションを取ることもできる。この日のランウェイでは、「ティルダ」が創作した3000枚以上のイメージとパターンをベースに製作された200以上の衣装が紹介された。
◇デザイナーとして登録
ソウル市江西区(カンソグ)麻谷洞(マゴッドン)にある「LG・AI研究院」。ここの「AIヒューマンカンパニー」で、ティルダを、企画から今後の展開まで、すべてを担当するセクター長、イム・ジェホ氏がいる。
イム氏はティルダ初登場の場面をこう回想した。「かなり爆発的な反応でした」
ティルダの登場はZ世代を中心に話題を集めた。ランウェイ当日だけでも、ティルダとそれに関連した1000万以上のInstagramストーリーが共有された。
ファッション業界のバイブルとされる「VOGUE(ヴォーグ)」には、ティルダのデザイン・セクションができた。ストリートファッションを配信するデジタルメディア「HYPEBEAST(ハイプビースト)」、110年の歴史を持つ「WWD(Women’s Wear Daily)」や世界三大男性誌の「Esquire(エスクァイア)」など、世界の主要なファッション誌がティルダの登場を業界の話題にした。
ニューヨーク・ファッションウィーク以降、ティルダとのコラボレーションの要請は後を絶たない。
「ファッション業界だけでなく、NFT、音楽、アートなど、芸術に関連するあらゆる分野の方からたくさんの連絡が来ています。アーティストの間では、AI技術を活用することがトレンドを意識していると思われているようです」
イム氏はこう続けた。
「次の活動についても内部で議論しています。誰もが考えられないような“2回目のデビュー”を作りたいですね」
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