「政府のアシアナ救済スキーム」
日本でもおなじみの大韓航空とアシアナ。韓国を代表する航空2社の合併に注目が集まっています。韓国公正取引委員会が「条件付き承認」の決定を出し、プロセスは「5合目を越えた」と言われています。現状を取材しました。(シリーズ1/6)
◇航空需要の世界的蒸発
韓国の航空業界の現状について、簡単に振り返ってみる。
1962年に大韓航空、1988年にアシアナ航空がそれぞれ参入し、韓国の航空業界はこの2社による寡占状態が続いた。
需要が急拡大するなか、2000年代中盤、競争によって料金引き下げを図る狙いから、参入規制が大幅に緩和され、格安航空会社(LCC)が韓国でも相次いで誕生した。大韓航空とアシアナ航空の2社もこうしたLCCに対抗するため、それぞれの傘下のLCCを設立し、航空業界の競争が激しくなった。
一方で、国内の航空需要には限界があった。そもそも韓国は国土が広くなく、高速鉄道が便利だ。それゆえ、各社とも国際線の比重を高める。2019年には航空機搭乗者の約17.5%が国際線だった。
アシアナ航空――韓国の中堅財閥「錦湖(クモ)アシアナグループ」の一員。航空や高速バス、タイヤ製造など多方面の事業を展開していた。ところが破綻企業の無理な買収などが響いてグループの経営状況は悪化。グループ最大の系列企業であるアシアナ航空は2019年12月、現代グループの傘下にあった住宅建設会社「HDC現代産業開発」に売却されることになった。
HDC現代産業開発はホテルや免税店も運営しており、航空会社の買収による相乗効果を期待していた。このHDC現代産業開発との交渉は、韓国政府100%出資の韓国産業銀行が錦湖アシアナグループと債権団の代表として進めていた。
そのさなかだった。新型コロナウイルスのパンデミックが起き、航空需要が世界的に「蒸発」した。LCC各社の経営は悪化、一部の社では会社更生の手続きが進められた。 HDC現代産業開発との交渉も2020年9月に打ち切られ、アシアナ航空の経営は債権団が握ることになった。
◇政府系銀行が韓進KALに出資
それから2カ月後だった。国土交通省から「大韓航空によるアシアナ航空の買収」が発表された。
とはいえ、大韓航空も新型コロナでダメージを受け、買収に耐えうる体力はない。結局、業界1位による2位の買収劇は「韓国政府による救済スキーム」で進められることになった。
その方法とは――大韓航空がアシアナ航空の第三者割当増資を引き受ける形で出資して子会社化する。
産業銀行が買収資金として、大韓航空の持ち株会社「韓進KAL」に8000億ウォンを出資する。5000億ウォンは第三者割当増資への参加▽3000億ウォンは転換社債の購入――にそれぞれ使われる。
大韓航空は2兆5000億ウォン規模の増資を実施する。その株式29.96%を韓進KALは7317億ウォンで購入する。そして大韓航空は調達した資金を使い、アシアナの新株を1兆5000億ウォン規模で購入し、63.88%を保有する最大株主となる。アシアナ航空の永久債3000億ウォンも購入するため、買収総額は1兆8000億ウォン。
これにより、アシアナには多額の資金が投入され、経営危機はいったん回避されることになる――。
政府系の産業銀行が韓進KALに出資したことで、韓進KAL株10.66%を保有する株主となった。同行が韓進KAL側と結んだ投資合意書では、同行が重要経営事項の事前協議権と同意権を持つと定められている。
政府は両航空会社の統合に際して、人員・路線は削減しない方針で、産業銀行はこの方針に沿って影響力を行使することになった。
(つづく)