
2025年下半期、外交舞台で積極的な動きを見せた北朝鮮が、2026年初めまでは「戦略的観望」路線を続けるとの見方が強まっている。キム・ジョンウン(金正恩)朝鮮労働党総書記は9月の最高人民会議で「時間は我々の味方だ」「時間が経つほど我々に有利になる」と述べ、自信を示した。
北朝鮮は2021年の第8回党大会で提示した経済・国防分野の「5カ年計画」を今年で終える。キム総書記は当面、来年初めに予告されている第9回党大会まで体制結束を優先し、その後に新たな対外戦略を提示する構えとみられる。
◇朝中・朝露関係強化で“反米連帯”拡大
2025年の北朝鮮外交は「反米連帯の強化」に集約される。ロシアのウクライナ侵攻以降、朝露関係の急接近が続くなか、朝中関係も回復基調を見せた。
2月にはパク・ミョンホ(朴明浩)外務次官が王亜軍・駐朝中国大使と会談し、高位級外交接触を再開。3月には外務省が「朝中親善関係を新たな高みに発展させるのが党と政府の確固たる立場」と強調した。
中国が「抗米援朝戦争」参戦75周年を迎えた2025年、朝中は「血盟関係」を再確認し、停滞していた交流を再開した。キム総書記は9月、中国・北京で開かれた「抗日戦争および世界反ファシズム戦争勝利80周年記念式典」に初めて出席。習近平国家主席、プーチン露大統領と並んで行進する姿が国際社会に放映され、米国に対抗する3カ国連帯を誇示した。
北朝鮮はまた、チェ・ソニ(崔善姫)外相を単独で中国に派遣し、国連総会には7年ぶりに高官級代表団を送るなど、従来の“友好国外交”から“多国間外交”への転換を図っている。
◇対米関係は「条件付き対話」路線
一方で、北朝鮮の対米発言には変化の兆しが見える。キム総書記は最近の演説で、トランプ米大統領との「再対話の可能性」を示唆した。ただし「非核化を放棄せよ」と前提条件を突きつけ、ハードルを一層上げた。
キム総書記は最高人民会議(9月20~21日)で「現米大統領トランプに良い思い出がある」と述べつつ、「米国が非核化妄念を捨て、我々との真の平和共存を望むなら対話を拒む理由はない」と発言。「核を放棄した国がどうなったか、世界は知っている。我々は絶対に核を手放さない」と強調した。
北朝鮮は、米国が核保有を事実上認め、体制安全を保証する「絶対的信頼」を見せるよう要求している。トランプ政権が11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)でどのような「対北朝鮮メッセージ」を出すかが注目される。北朝鮮はこの動向を見極めた上で、来年初めの第9回党大会で新たな外交方針を正式に打ち出すとみられる。
◇年末までは「内部結束」重視へ
北朝鮮は当面、キム・ジョンウン体制の権威固めと民心掌握に集中する。10月10日の党創建80周年を前に、党・政府メディアはキム総書記の指導力と経済成果を強調する報道を続けている。
とりわけ民生分野では「人民第一主義」「自力更生」路線を掲げ、制裁下でも成果を上げたとする宣伝を展開。医療インフラの拡充を「保健革命元年」と位置づけ、平壌総合病院をはじめ地方の医療施設や薬局を増設している。
経済政策面では「地方発展20×10政策」(毎年20地域に工場を建設)を推進し、穀物管理施設・病院・科学技術拠点の整備を拡大。地方経済の再建に力を入れている。
北朝鮮は2021年の第8回党大会で掲げた経済・国防5カ年計画を本年で締めくくり、2026年の第9回大会で新たな5カ年計画を発表する。党創建記念日はその雰囲気を高める重要な節目となる。
専門家は「北朝鮮は年内は内部結束と成果誇示に注力し、来年初頭の党大会で米朝関係・中露連携・新経済戦略を一括提示する可能性が高い」と分析している。
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