
韓国を訪れる外国人旅行者が2025年、過去最多を記録する見通しとなるなか、韓国を訪れる台湾人観光客の間で「予約した宿泊施設は違法なのではないか」とする不安が広がっている。
背景には、民泊仲介大手「Airbnb(エアビーアンドビー)」が10月から韓国国内の無届け物件の一斉削除に踏み切るという方針を打ち出したことがある。これにより、宿泊施設不足や料金高騰が懸念される一方、政府の取り締まりは自治体や部処ごとにバラバラで制度的な空白が残されているという指摘が相次いでいる。
韓国の観光業界によると、台湾のオンラインコミュニティや旅行カフェでは最近、「予約した宿泊先が合法かどうか」を尋ねる投稿が相次いでいる。
ソウルでゲストハウスを運営するある事業者は「ここ数日、台湾から『合法登録済みか』『営業番号を教えてほしい』『政府の取り締まりでキャンセルされないか』といった問い合わせが殺到している」と話し、応対だけで疲弊しているという。
こうした不安は台湾現地メディアの報道によってさらに拡大した。
台湾メディアは「10月から韓国ではオフィステルが商業施設として分類され、Airbnbから大量に削除される」と伝え、「登録数が減少し、宿泊供給の不足と料金の上昇は避けられない」と報じている。あわせて、「韓国を個人旅行で訪れる場合は、合法宿泊施設かどうか必ず確認すべきだ」との警告記事も相次ぎ、旅行者の不安心理をあおっている。
問題の根底には、Airbnbが打ち出した「違法宿泊施設の排除」方針がある。Airbnbは10月16日から、韓国内すべての物件に対し「営業申告」の義務化を実施する。登録済みであっても、自治体への申告を終えていない場合、2026年1月から予約受付が停止される。
2024年末時点で、韓国に登録されたAirbnbの宿泊施設は約7万2400件。そのうち約3万6000件がマンションやオフィステルなどを使った「シェア宿泊」形式だが、合法登録(外国人観光都市民泊業など)を済ませていたのは約7200件に過ぎない。つまり、残りの約2万9000件、実に8割が無届けで営業されていたことになる。Airbnbは、韓国法を順守する方針のもと、自主的に未申告施設の削除に乗り出した格好だ。
しかし、問題はこうした無届け施設の退場によって生じる空白を埋めるインフラが決定的に不足している点にある。特に、違法施設の多くが首都圏に集中していることから、外国人観光客が最も訪れる地域で宿泊難が深刻化する懸念が広がっている。
さらに、政府による制度整備が不十分である点も混乱を招いている。違法施設の取り締まり件数は、2021年の681件から2022年には272件と大幅に減少。その後も2023年は505件、2024年は256件と増減を繰り返し、安定的な施行には至っていない。しかも、ほとんどが行政処分にとどまり、合法登録への誘導効果は乏しかった。
制度の分散も混乱を助長している。都市民泊業は文化体育観光省、農村民泊は農林畜産食品省、生活型宿泊施設は国土交通省が所管しており、法令や手続きがばらばらで、管理主体も分散している。登録要件や基準も自治体ごとに異なり、複雑さが事業者の負担となっている。
業界関係者は「同じ条件でも地域によって許可が下りたり下りなかったりする。これでは違法施設が登録に踏み切る動機を失い、他のOTA(オンライン旅行代理店)や短期賃貸プラットフォームへ流れてしまう」と指摘する。
外国人観光都市民泊業協会のチョン・デジュン事務局長は「合法性を確認しようとする海外旅行者が増えているということは、韓国の宿泊市場に対する信頼が落ちている証拠だ」としたうえで「政府が制度を一本化し、安定した市場環境を示せなければ、『訪韓客3000万人時代』という目標も空念仏に終わるだろう」と警鐘を鳴らしている。
(c)news1