
北朝鮮のキム・ジョンウン(金正恩)朝鮮労働党総書記とトランプ米大統領による「対話戦略」のズレが鮮明になっている。北朝鮮は新冷戦構図を利用して中国・ロシアとの関係を強化しながら米国に向かう「三段階外交」を進める一方、米国はトランプ大統領の個人的意向を軸に来年の中間選挙前に短期的成果を得ようとしているため、両国の計算は大きく食い違っている。
韓国・国家安保戦略研究院のソン・ギヨン首席研究委員は、慶南大学極東問題研究所に寄稿した報告書で「北朝鮮の対米戦略と米国の対北戦略の最大の特徴は『非対称性』だ」と指摘した。
北朝鮮は「対露→対中→対米」という三段階の能動的な外交戦略を描いている。ウクライナ侵攻を契機にロシアとの軍事協力を深めたのが第1段階、中国の抗日戦争勝利80周年記念行事にキム総書記が出席し中朝関係の復元を試みたのが第2段階だ。中国人観光客の団体旅行再開などが実現すれば、北朝鮮は第2段階を軌道に乗せ、最終的に米朝首脳会談による「核保有国」認知と制裁解除を狙う第3段階に進むとみられる。
一方、トランプ大統領の第2期政権下での対北朝鮮外交は、個人の「直感的手腕」への依存が一段と強まっている。リチャード・グレネル特使の影響力は低く、前政権でキム総書記との交渉に関与したとされるアレックス・ウォン安保副補佐官も任命直後に更迭された。トランプ氏自身は「キム・ジョンウン氏と良好な関係を続けている」と強調し続けているが、外交成果は乏しい。
2026年11月の中間選挙を控え、ロシアのウクライナ侵攻も終結に向かう兆しがなく、中東での衝突も完全に収拾できないなか、トランプ政権にとって北朝鮮との外交的成果は急務となり得る。
ソン・ギヨン氏は「北朝鮮は地域外交の舞台を自ら中心に展開しようとしており、米国は選挙を意識した時間的制約に直面している」と表現。そのうえで「米国が『非核化』といった最終目標に触れず、北朝鮮の現状の核保有を事実上認める姿勢を示せば、北朝鮮は核保有国としての地位を主張しつつ対話に復帰する名分を得る」と分析した。
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