
第2次日韓協約120周年、朝鮮半島が日本の植民地支配から解放された「光復」80周年、そして日韓国交正常化60周年。宿命のライバルであり、パートナーでもある日韓両国の関係が新たな転機を迎えた。第2次トランプ政権の時代において、日韓ほど立場が似ていて互いに助け合える存在はない。日本と韓国が共に“トランプの波”を乗り越え、低成長と少子高齢化を克服する――そんな方法を模索する。

岡山県勝田郡奈義町は2025年6月時点の人口は約5400人。ただ、少子高齢化が深刻な他の日本の地方とは異なり、ここでは合計特殊出生率が2.5人以上を記録している。2019年には出生率が2.95人に達した。
合計特殊出生率とは、15〜49歳の出産可能な女性が一生のうちに産むと予測される子ども数の平均を示す指標。人口1000人あたりの年間出生数を示す「出生率」とは区別される。
奈義町の子育て等支援施設「なぎチャイルドホーム」を8月7日、MONEYTODAY記者が取材した。2人の娘を連れて訪れた女性に話を聞いてみると――。
「長女は生後3カ月のころからここでお世話になっています。出産後は育児への不安が大きかったですが、同じ年頃のママたちと出会い、会話を交わす中で自然と困難を乗り越えられるようになりました。母親として共感してもらえることだけでも、とても大きな力になりました。子どもたちが“奈義町から愛情を受けて育った”という事実を忘れず、この地域をつくっていく存在になってほしいです」

岸田文雄前首相は在任中、少子化問題を日本の最重要国家課題と位置づけ、最初の視察先として選んだのが奈義町だった。少子高齢化に苦しむ韓国慶尚北道や全羅南道霊光郡も奈義町との協力を続け、出生率向上のための助言を求めている。
奈義町が高い出生率を実現できた秘訣は、いわゆる「母親たちのワンオペ育児」からの解放にある。「チャイルドホーム」では、地域の親であれば誰でも、いつでも保育を依頼できる。常勤スタッフとして働く6人の育児アドバイザーに加え、パートタイムの先輩ママや60歳以上の高齢者が育児をサポートしている。実質的に「村全体で子育てをする」システムが、出生率の奇跡を生んだ要因とされている。
また、週4回、保護者同士が協力して自主保育を担う「たけの子」という活動も運営されている。保護者と保育士が当番制で子どもを見守る仕組みだ。さらに、保護者が緊急時に子どもを預けられる「スマイルサービス」も提供している。
「チャイルドホーム」のある常勤スタッフは「保育システムは現在、『2歳以上』と『以下』で分かれて運営されています。育児アドバイザー1人に対して先輩ママ2人が時間を分担して育児をサポートしています」と紹介した。

子育て支援政策の一環として始まった「しごとコンビニ」も、奈義町ならではのユニークな取り組みだ。しごと(仕事)コンビニは、その名の通り、コンビニで物を買うように気軽に仕事を見つけられる地域コミュニティ。出産後にキャリアが途切れた主婦たちに、短期の仕事を提供しようという趣旨でスタートしたという。
奈義町の自治体や個人が、書類整理や農作業の手伝いといった仕事を「しごとコンビニ」に依頼すると、それを希望する人に仲介する。現在は約360人が会員登録しており、17歳の学生から92歳の高齢者まで年齢層も多様だ。
最も多いのが、子育てをしながらお小遣い稼ぎや社会活動をしたいと考える若い主婦たち。取材で訪れた際にも「しごとコンビニ」では、20代の主婦が奈義町役場から委託された書類の仕分け作業に取り組んでいた。
「しごとコンビニ」のある常駐スタッフは「子どもを持つ母親の立場からみれば『自分のやりたい仕事をやりたい時間にできる』というのがしごとコンビニの最大の特徴です。育児と両立しながら自分の都合の良い時間に働け、自分の経験も活かすことができます」と、利点を語った。
(つづく)
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