
米演劇界最高栄誉であるトニー賞で韓国創作ミュージカル「Maybe Happy Ending」が作品賞を含む6部門を受賞し、韓国公演芸術界への注目が高まる中、ソウル・大学路(テハンノ)の小規模劇団や制作会社を中心に俳優やスタッフへの賃金未払いなど不当待遇が依然として深刻であることが明らかになった。業界の閉鎖的構造から被害者が救済手段を取りにくく、雇用当局による常時的な労働監督の必要性が指摘されている。
32歳の女性ミュージカル・演劇俳優は、3地域で2週間ずつ地方公演をしたが、一部公演の出演料が2カ月間支払われなかったと証言する。額は約100万ウォンに上り、理由は「会社に資金がない」だけだったという。共演した他の俳優3人もいまだに報酬を受け取っていないとされる。
未払いはフリーランス俳優だけでなく、劇団所属の専業俳優やスタッフにも及ぶ。研修期間3カ月間は無給、契約書不作成、1日の公演を現金封筒の最低額で済ませるなどの慣行が横行しているという。韓国コンテンツ振興院の2024年の調査では、文化芸術従事者の17.9%が賃金未払いを経験し、そのうち65.4%は泣き寝入りしていた。無報酬での作品参加経験者も21.1%に達する。
ミュージカル俳優の30代女性は、5年前に賃金未払いのまま劇団で1年間働いた経験を語る。当時、同劇団の演出家が制作する新作にフリーランスとして参加した際も、公演前日まで報酬に関する説明はなかったという。賃金を払わない演出家も業界内で強固な地位を持ち、事実上の“カルト的”勢力となっているため、俳優らは評判を気にして問題提起が難しいと口をそろえる。
こうした状況を変えるには、雇用労働省による先制的かつ常時的な労働監督が不可欠だとの声がある。公認労務士のハ・ウンソン氏は、労働監督を常態化すれば個人が通報による不利益を恐れる必要がなくなり、事業主も人件費の優先順位を高めると指摘。「意識改革のための教育も可能だが、最も有効なのは行動で示すことだ。産業災害監督と同様に賃金未払い監督の優先度を上げるべきだ」と強調した。
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