
韓国のイ・ジェミョン(李在明)政権が、人口危機に対応するための司令塔として新たな組織「人口対応戦略委員会」(仮称)の設置を検討している。既存の「低出産・高齢社会委員会」を大統領直属の組織に拡大改編し、人口関連の政策と予算を一元的に担当する構想だ。
人口全体にかかわる問題を包括的に扱う姿勢と受け取れるが、「少子化対策」だけでは不十分だ。なぜなら、韓国は「世界最高水準の自殺率」というもう一つの深刻な人口危機に直面しているからだ。
統計庁によると、2023年の自殺による死亡者数は1万4439人で、人口10万人当たり28.3人。これは経済協力開発機構(OECD)加盟国の平均(11.3人)を大きく上回る水準だ。特に10~30代では死因の第1位が自殺であり、これは社会的な安全網が機能していない証左といえる。
イ・ジェミョン大統領もこの現実に重く向き合っており、先月の閣議で「わが国の自殺率は口にするのも恥ずかしいほど高い」として、保健福祉省に対策の準備を指示した。
もし新設される人口対応戦略委員会が「真のコントロールタワー」を目指すのであれば、自殺予防対策を除外してはならない。すでに生まれた人々が自ら命を絶つような社会で、「新たな命の誕生」だけを議論するのは本末転倒だ。
専門家は、政府全体で自殺予防政策を進めるには、大統領直属の専門委員会が必要だと指摘してきた。現在の体制では各省庁や地方自治体の連携が難しく、責任の所在も曖昧になっている。人口対応戦略委員会が調整と統括を担い、保健福祉省が実行を支える仕組みがあれば、政策の立案から執行まで一貫性を持たせることができる。
すでに生まれた人々が幸せに、安全に生きられない社会では、出産率をどれだけ上げたところで持続可能な未来は築けない。人口政策の第一歩は、「人を守ること」から始めなければならない。【news1 ク・ギョウン記者】
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