2025 年 7月 11日 (金)
ホーム政治北朝鮮韓国新政権誕生後、変化する北朝鮮の態度…住民送還で見えた「間接対話」と緊張緩和の兆し

韓国新政権誕生後、変化する北朝鮮の態度…住民送還で見えた「間接対話」と緊張緩和の兆し

北朝鮮住民が漁船に乗って戻る様子=統一省提供(c)news1

海上で漂流し韓国側に保護されていた北朝鮮住民の送還過程で、北朝鮮はこれまでの敵対的姿勢を抑えた対応を見せた。直接の南北対話こそ再開されていないが、国連軍司令部を通じた間接的な意思疎通に応じ、韓国側が通知した日程に合わせて住民引き取りのための警備艇を派遣した。この姿勢の変化は、イ・ジェミョン(李在明)政権発足以降、北朝鮮が対南強硬路線をやや緩めていることを示している。

韓国政府は7月9日、2025年3月と5月にそれぞれ黄海と日本海で韓国側に保護された北朝鮮住民6人を北朝鮮に送還した。海洋警察と軍が協力し、住民らを1隻の船に乗せて日本海の北方限界線(NLL)付近で北朝鮮側に引き渡した。

特筆すべきは、南北間に直接的な通信がない中で、北朝鮮が送還スケジュールに合わせて現場に現れ、住民を引き取った点だ。韓国側は南北共同連絡事務所や日本海・黄海の軍通信線など通常の通信手段が使えない状況下で、国連軍司令部を通じて2回にわたって送還計画を伝達し、具体的な日時と海上座標も通知した。

北朝鮮は明確な返答はしなかったが、当日には韓国側が指定した時間と場所に合わせて行動し、住民を引き取る準備を整えていた。事前にその兆候を察知していた韓国政府は、北朝鮮が現れると見込んで作業を進めていたとされる。

2023年末に「南北二国家論」を唱え、南北及び国連軍司令部との一切の通信を遮断した北朝鮮だったが、イ・ジェミョン政権が発足して以降、徐々に態度を軟化させている。

例えば、北朝鮮は6月25日に国連軍との直通電話を通じ、軍事境界線(MDL)一帯での「国境線化作業」の再開を通告した。この作業自体は春から始めていたが、正式な通報は政権交代後だった。形式的ながらも南北間の慣行に則った対応と言える。

また、イ・ジェミョン政権が対北ビラの散布規制と拡声器放送の中止という緊張緩和措置を発表すると、北朝鮮はすぐに対応。拡声器放送停止から一日も経たずに北側の騒音放送も停止され、北朝鮮のキム・ジョンウン(金正恩)朝鮮労働党総書記は対南における敵対的発言を大幅に控えた。

専門家の間では、こうした北朝鮮の動きは新政権への意識的な反応であり、韓国側の先制的な融和措置について「不利でない」と判断した上での対応だと見られている。さらに、2025年末から2026年初頭に開催されると予想される党大会での次期5カ年国家計画策定を前に、戦略的選択肢を広げる狙いもあるとされる。

韓国政府もまた、対北融和姿勢を維持している。今回の送還については「人道的措置」に過ぎないとし、南北関係改善とは切り離して説明した。これは、北朝鮮に余計な圧力をかけず静かに関係改善を進める姿勢の表れだ。

今回の住民送還で、南北が最低限の「暗黙の意思疎通」を成立させた点は、緊張緩和に一定の効果をもたらす可能性がある。大規模な外交転換には至っていないものの、人道的案件に関しては協調の余地があると確認されたことは、今後の関係改善への布石となり得る。

ただ、多くの専門家は依然として南北関係が大きく転換したとは見ておらず、正式な対話再開には至っていないとの見方が主流だ。

北朝鮮研究の専門家であるパク・ウォンゴン梨花女子大学教授は「今回の送還を通じて南北の間での直接的なコミュニケーションがいかに難しいかが明らかになった。今後、米朝協議が再開されれば、その際に韓国が間接的に関与することで北朝鮮との接点が広がる可能性はある」と語った。

(c)news1

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