
韓国ドラマ界で30年にわたり活躍してきた演出家・脚本家のパク・ソンスさんがこのほど、創作の現場で培った経験をもとに、ドラマ作りに必要な資質や、創作の本質を語る『韓国式ストーリーのつくりかた』を出版した。数々のヒット作を手がけ、後進の育成にも尽力してきた著者が掲げる「共感を生むキャラクター」「失敗を恐れない挑戦心」「プロセスを楽しむ姿勢」とはどのようなものか。オンラインによるインタビューでパク・ソンスさんに尋ねてみた。【KOREA WAVE編集長 西岡省二】
◇夢追う若者たちへ贈る“実践書”
パク・ソンスさんはドラマの演出家・プロデューサーとして、脚本家として、さらに脚本家養成の講師として、30年にわたりその現場にたずさわった。2014~17年には韓国MBCテレビのドラマ局長を務め、多くの新人脚本家とともにドラマ制作にかかわってきた。ドラマの企画・演出経験をもとに、韓国放送作家協会教育院、韓国芸術総合学校、韓国の中央大学などで後進の育成にも取り組んでいる。その間、『おいしいプロポーズ』など、主に青春の反抗・成長を描いた作品を演出し、2002年にはドラマ『勝手にしやがれ』で多くのファンを獲得して、百想芸術大賞、韓国放送大賞などを受賞した。
――『韓国式ストーリーのつくりかた』を書くようになったきっかけは?
「ソウルにあるドラマ作家アカデミーで講義をしてきました。そこにはドラマ作家を目指す受講生がいて、作家デビューを夢見ています。でもドラマ作家になるというのは本当に難しい。会社を辞め、人生のすべてを賭けてくる人もいます。彼らの時間と人生が無駄にならないようにするためにはどうすれば良いか考えました」
「私はドラマシリーズの監督を務めたこともあり、放送局の編成局長としてドラマの企画にも関わり、脚本を書いた経験もあります。ドラマに関する重要な側面をすべて経験してきたので、誰よりも現実的で役に立つ道を彼らに示せるのではないかと思って、この本を書くことにしました」

◇韓国ドラマの「3つの転換点」
――ドラマ制作にかかわった30年間に韓国社会も大きく変化しました。制作現場にいて、その変化をどのように感じましたか。
「大きく3つの変化のポイントを経験しました。まず最初は2002年の(日韓共催の)ワールドカップの時期に『冬のソナタ』が日本で大ヒットし、日本で『韓流』という言葉が使われ始めたことです。その後、2003年に『チャングムの誓い』というドラマが日本で放送され、韓流が日本で一種のブームとなりました」
「次に、中国でも韓国ドラマが消費され始めました。もちろんそれ以前にも中国では少し非合法的にコピーや海賊版のようなものもありましたが、公式に韓国ドラマを輸入し始め、特に2010年代には『星から来たあなた』のようなドラマが大ヒットし、韓国・日本・中国の間でコンテンツの活性化が進みました」
「もう一つが、新型コロナウイルスのパンデミックで世界的なシャットダウンが起こり、多くの困難があった時期。逆に韓国ドラマが非接触型コンテンツとして、OTT(動画配信サービス)やモバイルで視聴できる強みを生かし、世界中で親しまれるようになった。こうした3つの転換点がありました」
◇熾烈な競争が名作を生む
――韓国は競争社会と言われます。ドラマ業界での競争も熾烈です。
「作家や脚本家、映画制作者に限らず、すべての分野で競争が激しくなっていると感じています」
「30年前もやはり熾烈な競争がありました。私が所属していたMBCドラマ局の中でも、プロデューサー同士、監督同士の競争が激しかったのをよく覚えています。当時、私がドラマを成功させると、放送局幹部らがとても嫉妬しました。作家や監督たちは欲や競争心が非常に強く、休みを惜しまずに仕事をするような環境がありました。まさに“戦い”とも言えるようなものでしたね」
「ですが、今の韓国社会における競争の問題は、また次元が少し違うものになっています。それでも私は、そのような熾烈な競争心が、それぞれの個性的なドラマ作品を生み出す原動力になっていたのではないか、と感じています。ただ、勝ち負けにこだわらず、互いに共有し、共存し、協力し合える社会を心から望んでいます」

◇ドラマ審査の決め手はキャラクター
――新人作品の審査にもかかわっています。審査で最も重視することは何ですか。
「公募作品や放送局で編成を検討する台本では、『シナリオ』と『脚本』が別になっています。シナリオとは概要や設定、キャラクターの説明などであり、脚本は実際のセリフが含まれている。つまり台本ですね。私は審査をする際、まず脚本から読みます。前に書かれているシナリオは読まず、脚本を読みながら登場人物のキャラクターに魅力があるか、その主人公に共感・感情移入できるかを最も重視します。キャラクターに魅力があり、共感できれば、その作家に高い点数を与えます。どれだけストーリーが斬新で面白くても、登場人物に共感できなければ評価を下げます」
「だからこそ、韓国ドラマで最も重要なのは、素材やストーリーの構造よりも、人物の感情をいかに繊細に描くかという点です。韓国のドラマ作家たちは、また演出家たちは、人物の感情やリアクションをとても上手に表現します。これによって視聴者との共感を築けるのです。人物の感情をうまく描ける作家は、ドラマをより感動的に、より面白く、温かく、そして情緒豊かなものにする力があります。これは作家にとって何よりも重要な資質だと思います」
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