370日。韓国の保守系野党「国民の力」のユン・ソンヨル(尹錫悦)氏が現職の検察総長として大統領選に勝利するまでにかかった日数だ。昨年3月4日に検察総長を辞任してから、わずか1年で大統領に就任することになった。国会議員の経歴がないだけでなく、政治経験も8カ月足らずのユン氏を招きよせたのは、まさに「国民」だった。
「国民の力」が掲げたスローガンのように「国民が育てた」のだ。ムン・ジェイン(文在寅)大統領と「共に民主党」政権に対する国民の失望感と怒りは、2019年の「チョ・グク(曺国)事件」と、2020年から本格化した住宅価格の暴騰で頂点に達した。韓国国内では「私がすればロマンス、人がすれば不倫」というダブルスタンダードと政策の失敗は、政権交代世論の車輪を回す2大動力だった。
その中心にユン氏がいた。検察トップとしてチョ・グク元法相一家を捜査し、当時のチュ・ミエ(秋美愛)法相とも衝突した。脱原発関連の経済性操作事件などを捜査し、政策失敗にもメスを入れた。「生きている権力」に対する捜査と、これによる切迫感がムン政権の“看板スター”を“反ムン政権戦線の批判シンボル”に仕立てた。ユン氏に国民は歓呼し、国民の力が手招きした。
国民の力は、昨年4月の補欠選挙の勝利で民心をしっかりと確認し、2カ月後の6月、韓国政党史上類を見ない30歳代の党代表を立てて突風を予告した。その5カ月後には、わずか数日前まで自分たちに刃を向けた剣闘士を大統領選候補に立てた。
すべて史上初のことを可能にしたのは、他でもなく政権交代を求める民心だ。明知(ミョンジ)大のシン・ユル教授は、ユン氏が勝利した理由を「たった一つしかない。ムン大統領のおかげ」と断言した。不動産政策の失敗、青年層の失業増加、ダブルスタンダードによる公正さの破壊、最低賃金の急速な引き上げなど、所得主導成長の副作用、自分は善良だという傲慢な錯覚などを主な理由に挙げた。
韓国外国語大のイ・ジェムク教授は「共に民主党を最も支持する40代さえも政府の不動産政策には不満がある。民主政治を掲げたものの、曺国事件、仁川国際空港公社事態、ユン・ミヒャン(尹美香)論争で『私がすればロマンス、人がすれば不倫』だとの批判が多かった。パク・クネ(朴槿恵)前大統領が弾劾され、ムン政権が発足した時、有権者が民主政府に期待した“高い水準の道徳性”が大きく崩れてしまった」と診断した。
今やユン氏は、このような政権交代の民心に応えなければならない。勝利の喜びに酔うよりも、国民の前で謙虚に省察(自分自身を省みて、その良し悪しを判断)することが優先だ。国民の力とユン氏自らが認識したように、全面的に国民が育てただけに、分裂した国を統合する先頭に立たなければならない。
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