
韓国の大手芸能プロダクション「HYBE(ハイブ)」のパン・シヒョク議長が、2019年の上場前に投資家を欺いたとする「詐欺的取引」疑惑で警察の捜査を受ける見通しとなった。警察は8月中にパン・シヒョク議長を召喚し、IPO(新規公開株式)をめぐる不正取引容疑について取り調べる。
パン・シヒョク議長は2019年にHYBEが上場する前、投資家やベンチャーキャピタル(VC)など既存投資家に対して「上場計画はない」と虚偽の説明をし、自身の知人が設立したプライベート・エクイティ・ファンド(PEF)にHYBE株を売却させたという疑惑を持たれている。上場後、PEFは保有株を売却し、パン・シヒョク議長は事前に結ばれた株主間契約に基づき、売却益の30%を受け取った。
これに対し、パン・シヒョク議長は「誤解だ」と反論している。初期投資家を騙したのではなく、むしろ投資家側が売却を求めてきたと主張している。利益配分についても、投資家が先に提示した条件だったと説明している。
◇「BTSがどれだけ人気でも、どうせ兵役に行くじゃないか」初期投資家の不安
2017年当時のHYBE(当時はビッグヒット)の主力アーティストはグループ「防弾少年団(BTS)」だった。2013年のデビュー以降、チャート1位の常連となり、米ビルボードや英オフィシャルチャートにもランクインし、ワールドスターの地位を築いていた。BTSの成功によってHYBEの企業価値も上昇した。
一方、初期投資家にとっては悩みの種が増えていた。韓国のアイドルが海外で成功した前例がないわけではないが、それが長く続くとは限らないことを理解していた。「一瞬の輝きで終わるかもしれない」「すでにピークではないか?」という懸念が拭えなかった。
決定的だったのは、メンバーの兵役が近づいていたことだ。BTSに代わる新たなスターがいれば別だが、当時のHYBEには代替できるアーティストが見当たらなかった。
初期投資家はHYBEの企業価値が上昇したタイミングで、将来の不確実性を抱え続けることを避けた。上場も不透明な状況だった。当時のHYBE社内でも上場よりもグローバルな投資誘致に力を入れていた。ソフトバンクから出資を受けたクーパンのように、外国資本の支援を受ければ経営に専念できると判断していたのだ。
結果的に初期の機関投資家たちはリスク管理の一環として株式売却を決定した。先が見えない中で「もう十分に利益を得た」という雰囲気だった。
◇パン・シヒョク議長を通じて株式売却
投資家らはパン・シヒョク議長に「株式を買い取る投資家を探してほしい」と要請したとされている。
HYBEは2018年、既存株主からの売却要請を受けて、米国系および日本系投資会社に出資意思を打診した。しかし、BTSという単一IP依存構造や、兵役による活動空白のリスクが懸念され、出資は実現しなかった。
最終的にパン・シヒョク議長は、スティック・インベストメントおよびイーストン・エクイティ・パートナーズ(イーストンPE)などのファンドを紹介し、既存株主の資金回収を助けた。スティックは2018年10月に1039億ウォンを投じて、LBインベストメントや機関投資家が保有するHYBE株12.4%を買収した。
翌2019年6月には、イーストンPEが250億ウォンでチェ・ユジョン副社長の株式2.7%を取得。同年11月にはニューメイン・エクイティと共同でアルペンルート資産運用の株式全量と、チェ副社長の残りの持分、LBインベストメントの優先株など合計8.7%を追加で買い取った。
パン・シヒョク議長は初期投資家の資金回収を支援する過程で、スティックおよびイーストンPEに「ダウンサイド・プロテクション(損失補償条項)」を約束した。一定期間内に上場しなければ、パン・シヒョク議長がより高値で株式を買い取る条件だった。その代わり、上場に成功すれば差益の30%を受け取ることになっていた。
この取引によって初期投資家らは少なからぬ利益を得た。LBインベストメントは元本の約20倍の収益を上げたとされている。他の株主であるレジェンドキャピタルも3.88%の株式を売却して利益を確保し、残り6.2%はIPO後に売却した。最も収益率が低かったアルペンルートでさえも、保有株を売却することで元本比50%以上の利益を得たという。当時は双方にとって「ウィンウィン」の取引だったわけだ。
◇BTSの大成功…グローバル投資誘致に失敗しIPOへ急転換
初期投資家の懸念とは裏腹に、BTSはワールドスターとしての地位をさらに高めた。2019年に発表した「Boy With Luv」、2020年の「Dynamite」は大ヒットし、ビルボードチャートを席巻しただけでなく、韓国アーティストとして初めて英国ウェンブリースタジアムで単独コンサートを開催する快挙を成し遂げた。
その一方で、HYBEのグローバル投資誘致は頓挫した。ネットマーブルから2014億ウォン規模の出資は受けたものの、当初狙っていた海外大手投資家の資金は得られなかった。エンターテインメントという業種に対する不確実性が障壁となったのだ。
結果、HYBEは上場へと方針を転換。2020年1月にはIPO主幹事選定のための提案依頼書(RFP)を発送し、同年10月には証券市場に上場した。
公募価格は1株13万5000ウォンだったが、上場初日に「タサン(公募価格の2倍で始まり、そこからさらに上昇)」を記録し、華々しいデビューを飾った。2021年11月には42万1500ウォンまで上昇した。2021年3月には社名をビッグヒット・エンターテインメントからHYBEに変更した。
上場前に株を売却した初期投資家にとっては、やや悔しさの残る結果となった。最後の既存株主による株式売却からわずか2カ月後に主幹事選定に動き出したことが、後に論争の火種になった。
ただ、ある関係者は「BTSがここまで成功するとは誰も予想できなかった。初期投資家たちは上場失敗を懸念し、株式を手放しただけだ」と語った。
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