「200万ウォン(約22万円)使って、見るようなものじゃない。もう、ファンサイン会には行きません」
あるアイドルグループのファンである会社員の女性シムさん(29)は昨年、ファンサイン会の入場券を手にするため、200万ウォン分のアルバムを買った。胸を膨らませてサイン会を訪れたシムさんは「驚愕の光景を目撃した後、立ち止まらなければ……」と誓ったという。
その光景とは――ある人は突然、あるメンバーの頭を撫でようとした。別の人は「前の人のことは覚えているのに、私のことは覚えていないのか?」とメンバーに取り調べのように尋ねた。まるで「お金を使ったことを実感しようとして、悪態をつく光景」のように感じられ、不快感を覚えた。
ある女優を間近に見るために今年、空港を訪れた大学院生のキムさん(28)も「玉突き」の現場に舌を巻いた。
高級カメラで芸能人の写真を撮影するファンは「ホームマスター」と呼ばれている。はしごを置いて「ここは私の場所」と宣言する。地下鉄の駅ではしっかり秩序を守っていた人々なのに、いざ俳優が登場すれば、一瞬にして理性を失い、互いを押し合う――そんな場面を見て、嫌になった。
◇度を越したファンに失望
最近、芸能人の過剰警護の議論をきっかけに、芸能人がファンサービスをしながらも、ファンを過度に警戒する姿に批判の声が上がっている。
こうした現象の根本的な原因は、競争心理で汚された「ファンダム文化」だという分析が出ている。
今月12日に仁川国際空港で起きた過剰警護問題。俳優ピョン・ウソクの所属事務所が手配した私設警護員らは、写真撮影を防ぐために空港利用客の顔にライトを照らし、空港の入り口を無断でふさいで騒動になった。問題が大きくなると、仁川空港警察団が警護員を参考人として聴取したりもした。
先月、アイドルグループ「CRAVITY(クレビティ)」をめぐり、あるファンが警護員に頭を殴られ、脳震盪の診断を受けた。昨年5月にはグループ「NCTドリーム」のファンが、警護員に押されてろっ骨を骨折した。コンサート会場やファンサイン会で「ボディーチェック」されたという経験談も少なくない。
◇ファン競争を煽る所属事務所
「最愛」を少しでも近くで見たい――ファンにはこんな切実な気持ちがある。加えて「私こそ“最愛”とより親密なファンになる」という競争心理により、現場があっという間に修羅場になったりする。このプロセスで芸能人自身が被害を受ける事態が発生する。そのため所属事務所がファンに対する警戒水準を高めるわけだ。
ただ、こうした競争心理を煽ったのは、ほかならぬ所属事務所だという指摘もある。
多くの事務所は「ファンダムプラットフォーム」によって、ファンとのコミュニケーションを活発にする。購読型「プライベートメッセージサービス」を運営して、まるでファンと芸能人が毎日、私的なオンライン対話を交わすような経験を提供し、親密度を高める。
ファンクラブの有料会員だけに空港入・出国情報を提供し、アルバムの中にファンサイン会のランダム応募券を入れるなど、実際に芸能人に会える機会も有料で提供する。
芸能人に対し、数多くのファンの中で「私だけ」を印象づけさせるようにするファンの競争心理を育て、所属事務所はさらに大きな収益を出す。
その結果、ファンダム文化の弊害はさらに深まる――この悪循環が続いている。
約10年間、ある大手芸能事務所のアイドルグループのファンを続けてきたハンさん(29)は、次のような感想を持つ。
「芸能事務所が提供する有料メンバーシップサービスがファンの競争心理を助長している。その責任が確かに事務所にあると思う。ファンダム文化を過熱させる一方で、ファンを過度に警戒する。つじつまが合わないような気がする」
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