
韓国でのイ・ジェミョン(李在明)政権発足により、ユン・ソンニョル(尹錫悦)前政権が推進してきたAI(人工知能)デジタル教科書政策が、学校現場から事実上「撤退」の危機に直面している。
イ・ジェミョン大統領は「誤ったAIデジタル教科書政策を是正する」と明言し、AI教科書の法的地位を「教科書」ではなく「教育資料」として規定、学校の自律的な選択権を保障するとの公約を掲げた。
この方針転換により、すでにAI教科書を導入した学校では混乱が予想されている。一方で、莫大な開発投資をしてきた教科書発行各社は、教育省を相手取り行政訴訟に踏み切るなど、強く反発している。
教育関係者によると、今年3月から全国の小学校3・4年生、中学1年、高校1年の英語・数学・情報の3教科においてAI教科書が導入された。全国の小中高1万1932校のうち、少なくとも1種類以上のAI教科書を採用した学校は3870校にとどまり、平均採用率は32%に過ぎなかった。
本来、ユン政権は2024年から全国すべての学校にAI教科書を「全面導入」する計画だったが、教育現場の懸念や、当時野党であった「共に民主党」の強い反発により、法的には「教科書」としての地位を維持しつつも、導入は1年間の「自律選択」に変更された経緯がある。
本年度を「試験導入期間」と位置づけ、来年度以降に対象学年・教科の拡大を目指していたが、新政権の方針により、この計画は大きな見直しを迫られている。
イ・ジェミョン大統領が公約通りAI教科書の法的地位を「教育資料」に格下げすれば、今年後期からの導入率はさらに下落する可能性が高い。教科書は学校が義務的に採用しなければならないが、教育資料は学校運営委員会の審議を経て自律的に使用可否を決めるためだ。
韓国政府はこれまで、教員研修や教育インフラ整備を含めて約1兆ウォン(約1000億円)規模の予算を投入してきたとされるが、新政権が関連予算を大幅に削減した場合、AI教科書が実質的に現場から消えることも現実味を帯びてきた。
この動きに対し、発行各社は「義務導入を信じて数百億ウォン規模の投資をしたにもかかわらず、一方的な政策転換で損失を被った」として、4月には教育省を相手取り行政訴訟を提起した。
あるAI教科書発行社の関係者は「義務導入から自律選択へと変わったことで損失が非常に大きい。これでは学校が自由に使う教材に過ぎず、巨額投資の意味がなくなる」と訴える。別の発行社関係者も「義務導入が1年延期された時点でも非常に厳しかったが、政府の方針を信じて事業を進めてきた。政権が変わるたびに教育政策が揺れるのはおかしい」と批判した。
また、教科書の使用主体である学校現場でも混乱が避けられないとの声が上がっている。ある小学生の保護者は「導入時から賛否が分かれていたが、AI教科書に慣れてきた子どもや親にとっては、いきなり使用中止になると混乱せざるを得ない」と語った。
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