
韓国大統領選挙の期日前投票期間中、複数の投票所前で一部の有権者を「中国人ではないか」と詰問したり、撮影する場面が目撃され、外国人に対する嫌悪感情の拡大に懸念が高まっている。「不正選挙監視」を掲げる一部の自称監視者たちの行動が、実際には外国人差別的な様相を帯びているという指摘も出ている。
ソウル市広津区の住民センター前で5月30日、30代と見られる男性が「中国人のような人が来るか見ていた」と語った。彼は「不正選挙ではなく、個人的な確認のためだ」と主張していた。
同様の状況は他の地域でも見られた。ソウル市永登浦区では、「中国人を見分ける」として一部の投票者に話しかけ、韓国語能力を試すような行為があったという。
こうした主張の背景には、保守系政治家であるファン・ギョアン(黄教安)候補の影響もある。ファン・ギョアン氏は自身のYouTubeチャンネルで、中国系住民の多い地域の投票所を「不正選挙が疑われる事例」として名指ししていた。
SNSやオンラインコミュニティでは「中国人が投票している」との主張と共に、事実関係が不明な映像や投稿が急速に拡散している。中国のSNSアプリ「抖音」に投稿された動画や投票所での映像がその証拠として用いられている。
保守系団体「自由大学」は「中国人による投票の疑いがある」として、中央選挙管理委員会に対し説明を求める投稿をSNSに掲載している。さらに一部のネットユーザーは「中国人を見分けるために投票所を監視しよう」と呼びかけ、「韓国語を話せ」と迫るなど、差別的行為にまで発展している。
だが、これらの多くは事実に基づいていない。例えば、京畿道富川市で、自身の投票場面を撮影して「抖音」に投稿した30代男性が話題となったが、警察の調査の結果、この男性は韓国国籍を持つ有権者だった。
現行法では、大統領選挙に投票できるのは韓国国籍を持つ者のみで、外国人には選挙権がない。中央選挙管理委員会も「外国人による投票は不可能」と明言している。
専門家は、こうした行為が政治的な意図と結びつくことで、外国人に対する排外的感情を煽る危険があると指摘している。
高麗大学社会学科のキム・ユンテ教授は「中国への嫌悪感情は、米中対立や最新鋭迎撃システム『終末高高度防衛(THAAD)ミサイル』配備などによる外交的緊張の累積が背景にある。一部政治家やYouTubeチャンネルが、嫌悪感情を利用して政治的・商業的利益を狙っている」と警鐘を鳴らした。
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