
韓国の大手流通企業ホームプラスが今年3月、突如企業再生手続き(法定管理)を申請してから80日が経過した。年商7兆ウォン(約7700億円)を誇る企業の“先制的”な再生手続き申請は、取引先・投資家・従業員を含む関係者全体に大きな衝撃と混乱を与えた。
ホームプラスが突然法定管理に踏み切った最大の理由は、信用格付けの下落にある。当時、ホームプラスは資産担保証券(ABS)などを通じて月6000億~7000億ウォンの短期資金を調達していたが、営業不振と財務負担の悪化により、格付けが「A3」から最低投資適格の「A3-」に引き下げられた。もう一段階下がれば「投機等級(B)」となり、資金調達が実質的に不可能になる状況だった。
突然の申請により、サプライヤーは納品を中断し、入店業者や委託業者は精算金の未払いを懸念、2万人超の従業員はリストラへの不安に包まれた。とりわけ、ホームプラスの資産担保証短期社債(ABSTB)に投資していた個人投資家の損失が深刻で、約4500億ウォンが事実上凍結された。
当初、ホームプラスは「個人投資家の問題であり、当社とは無関係」との立場を取ったが、世論の批判を受けて「全額返済」に方針転換。ただし、返済は法定手続きの優先順位に基づくため、ABSTB投資家への支払いは7月の再生計画案が認可されるまでは保留される見通しだ。
業界では、ホームプラスおよび親会社MBKパートナーズが信用格下げを事前に把握しながらも、企業再生手続き申請の直前(2月25日)まで企業手形(CP)を発行していた点に着目。格下げ直後の2月28日から、わずか数日で申請に至った“スピード戦略”は、投資家に損失を意図的に押し付けた疑いがあるとして、検察がMBK幹部を詐欺などの容疑で捜査中だ。この疑惑の中心には、MBK創業者で会長のキム・ビョンジュ氏も含まれており、すでに出国禁止措置が取られている。
今回の混乱は、MBKによるホームプラスの無理なレバレッジ買収に起因するとの指摘も多い。MBKは2015年、ホームプラスを7兆2000億ウォンで買収。そのうち約70%(5兆ウォン)をホームプラスの資産を担保にして調達した。以降、不動産資産を売却しながら借金返済を進めたが、収益構造の悪化と高額な賃貸料が経営を圧迫した。
買収後、ホームプラスは営業赤字が続き、2021年以降は毎年1000億~2000億ウォンの赤字を計上。昨年も2000億ウォン前後の損失が見込まれている。3月にはキム・ビョンジュ会長が「私財出資」を表明したものの、具体的な行動がなく真意を疑う声も上がっている。
ホームプラスの今後は、6月12日までに提出される調査報告書と、それをもとに7月10日までに提出される再生計画案次第で決まる。
現在、同社は賃貸店舗の家主と賃料の引き下げ交渉を進めており、最大50%の減額を求めている。17店舗では契約を解除し、圧力をかける“崖っぷち交渉戦略”との見方もある。交渉決裂が続けば、今後さらに閉店が広がる可能性もある。
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