
5月21日、韓国のユン・ソンニョル(尹錫悦)前大統領がソウル東大門区の映画館に現れた。訪問の目的は、不正選挙陰謀論を扱ったドキュメンタリー映画『不正選挙、神の作品なのか』の初日上映を観覧するためだった。憲法裁判所によって罷免が決定された後、法廷以外での初めての公の場となった。
この行動は、不正選挙説への支持を改めて示したのではないかとの見方を呼んだ。実際、内乱罪で起訴された刑事裁判の中で、ユン氏は「不正選挙疑惑を検証するために非常戒厳令を準備した」と証言している。
翌日、中央選挙管理委員会は、映画の内容に対して強い遺憾を表明し、7ページにわたる反論文を配布した。そこには「映画が取り上げた主張の大半はすでに説明済みであり、裁判所の判決によって否定されている」と記されている。
実際、最高裁判所は3年前、不正選挙疑惑を提起した「未来統合党」(現国民の力)のミン・ギョンウク氏による選挙無効訴訟を棄却している。40ページを超える判決文の中で、裁判所は「これを認める証拠は他に存在しない」という文言を最も多く用いた。
裁判所はミン氏が主張した「誰かが大量の期日前投票用紙を偽造・投入した」「期日前投票の統計数値上、期日前投票操作が推定される」「投票用紙分類機などの使用は違法である」といった主張に対し、証拠がないか根拠が不十分だと判断した。
もちろん、司法の最高権威を持つ最高裁の決定であっても完全無欠とは言い切れない。しかし、この裁判において裁判所が不正選挙の主張を一つ一つ検証し、原告の主張が「陰謀論」に近いとの結論を下した点は注目に値する。
選管もまた、裁判所の判断とは別に、不正選挙疑惑が提起された後、絶えず、自主的に説明・反論を繰り返している。2020年の総選挙以降、不正選挙に関する説明資料だけでも10件を超える。
しかしながら、不正選挙陰謀論者たちは止まる気配を見せていない。彼らはさらに、裁判所の判断すら信じられないと主張している。
映画を制作したYouTubeチャンネル「イ・ヨンドンTV」の運営者イ・ヨンドン氏は先月25日、「映画に対する選管の説明に反論します」というタイトルの動画を公開した。
イ・ヨンドン氏は選管の主張には隙があるとし、次のように述べた。
「選管は裁判所の背後に隠れないでください。裁判所の判決文にも多くの疑問があります。選管の説明はさらなる疑問を生んでいます」
今後も選管が説明を出して反論しても、合理性と客観性を欠いた不正選挙陰謀論は止まらないだろう。
だからといって陰謀論を放置してはならない。
選管が疲弊してこれ以上反論を出さなくなることこそ、不正選挙を叫ぶ人々が最も望む結果なのかもしれない。
陰謀論がこれ以上広まらないように反論を続ける必要がある理由がここにある。【news1 キム・ジョンフン記者】
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