2025 年 7月 29日 (火)
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韓国・銃撃事件に便乗する憎悪と偏見…拡散する「加害者は中国人」というデマ [韓国記者コラム]

7月21日、ソウル市道峰区双門洞にある容疑者の宅=ソウル消防災難本部提供(c)news1

韓国仁川市松島で起きた銃撃事件の直後、加害者に関する事実無根のデマが拡散し、外国人に対する歪んだ憎悪が噴出している。事件の実態が明らかになる前から、SNS上では「加害者は中国人だ」「スパイか?」といったコメントが急増し、根拠のない情報がまるで既成事実のように広がっていった。

とりわけ注目されたのは、「加害者は中国国籍でノ・ムヒョン(盧武鉉)政権時代に帰化し、被害者は“純粋な”韓国人であり、加害者の実子ではない」とする投稿だった。約14万回も閲覧されたこの投稿には、一切の証拠も示されておらず、にもかかわらず驚くべき速度で拡散された。

この書き込みには、憎悪や分断を煽る意図が色濃く見える。まず「帰化した中国人」と「純粋な韓国人」という区分で、法的に韓国国民であるはずの帰化者を暗に「よそ者」とし、犯罪と結びつける偏見を前提としている。

また「ノ・ムヒョン政権」と名指しすることで、当時の政権がまるで“犯罪者を招いた”かのような政治的フレーミングも加えられている。「純粋な韓国人」という表現には、民族主義的・血統主義的な価値観がにじむ。だが、現代の人類学や遺伝学では「単一民族」という神話はすでに否定されており、2009年の学術誌「サイエンス」に掲載された研究によっても、東アジア諸国間での遺伝的交流は活発だったことが明らかにされている。

さらに、被害者が「実の息子ではない」という点を強調する記述も、家族関係が法律上成立していても「血縁でなければ他人」とする感情を煽り、同情心をそぐ目的がうかがえる。

現在、警察の捜査が進むにつれて、これらの主張はいずれも事実無根であることが明らかになってきている。それでもネット上には、デマの断片や憎悪の残滓だけが残り、元々は加害者に向かうべきだった怒りが、声を上げにくい社会的弱者に向けられる歪んだ構図が浮かび上がっている。

憎悪表現の危険性について、法学者のホン・ソンス淑明女子大学教授は著書「言葉が刃になるとき」で▽少数者の精神的苦痛▽平等な共存の破壊▽差別や暴力への前兆現象――の3点を挙げている。これらは韓国社会にもすでに数多く当てはまっている。

たとえば、1923年の関東大震災後に流布された「朝鮮人が井戸に毒を入れた」というデマは、在日朝鮮人の大量虐殺を引き起こした。その時の偏見は、今もなお在日コリアンに対する差別として残っている。

こうした歴史すら忘れ、あたかも「純粋な韓国人」であることに価値があるかのように振る舞う言説は、空虚でしかない。

さらに深刻なのは、このような憎悪と虚偽を法的に規制すべき「差別禁止法」が、依然として国会で棚上げされたままである現実だ。

デマはいつも真実より早く広がる。今こそ、事実と法でヘイトと対峙する仕組みの整備が求められている。【news1 クォン・ジニョン記者】

(c)news1

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