
韓国のチェ・サンモク(崔相穆)氏が野党主導の弾劾圧力の中で経済副首相兼企画財政相を辞任したことで、米国との間で進めていた為替協議に深刻な空白が生じた。アメリカが韓国に求めているウォン高への対応には、専門的な調整能力と政治的リーダーシップが必要だが、その「コントロールタワー」が失われた格好だ。
チェ・サンモク氏の辞任に伴い、為替協議を担当していた企画財政省の主導権は1次官のキム・ボムソク氏に引き継がれたが、職位や交渉力の面で限界があり、実質的な対米交渉は困難になるとの懸念が広がっている。
韓米両国は米首都ワシントンで先月24日(米国時間)開かれた「2+2通商協議」において▽関税・非関税措置▽経済安全保障▽投資協力▽通貨(為替)政策の4分野で実務協議を進める方針を確認した。
このうち為替分野では、米国の要求により、韓国の企画財政省と米財務省の間で個別に協議することが決まっていた。米国がこの問題を重視する背景には、経常赤字の解消を目的にウォン高を促す意図や、為替を通商交渉のカードとして活用しようとする戦略があるとみられる。
これに対して韓国側は、現在のウォン安は経常収支や為替操作といった人為的な要因によるものではなく、対米投資の拡大や政局の不安定さといった外的要因によるものだと説明する必要があった。しかし、チェ・サンモク氏の不在により、その交渉能力に空白が生じたとの指摘が出ている。
延世大学のキム・ジョンシク名誉教授は「米国はウォン安を為替操作と疑っているが、韓国側がしっかり説明する必要がある。しかし、その中心人物がいなくなったことで難しくなった」と述べた。
中央大学のイ・ジョンヒ経済学教授も「1次官が協議を続けることは可能だが、交渉当事者が変わることで不利になるのは避けられない」と語った。
特に懸念されているのが、米国側も韓国に大統領権限代行体制下の暫定指導部ではなく、新政権と協議を進めようとする可能性が高い点だ。このため、為替協議は事実上の「一時中断」に入る見通しだ。
産業研究院グローバル戦略研究室のキム・スドン・グローバル室長は「副首相不在の状態では協議の推進力が大きく損なわれ、6月の大統領選までは合意に至るのが難しいだろう。米国も交渉を無理に進めるのではなく、他国との交渉を優先し、韓国との協議は大統領選後に本格化するはずだ」と指摘した。
問題は、6月に発足予定の新政権が、7月に期限切れとなる相互関税の猶予措置までの1カ月間で、米国との為替協議をまとめなければならないという点だ。
韓国開発研究院(KDI)のソン・ヨングァン上級研究委員は「トランプ政権の通商政策による関税が、今や米国内にも深刻な影響を及ぼしており、6月末を過ぎると米国の経済指標が悪化する可能性が高まる。7月8日以降も相互関税の猶予が延長される可能性もあり、お互いの事情を踏まえた柔軟な対応が必要になるだろう」と述べた。
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