
中国の遺伝子解析企業「ノボジーン(諾禾致源、Novogene)」が韓国に現地法人「ノボジーンコリア」を設立し、事業拡大を本格化させるなか、韓国国内の遺伝情報流出への懸念が強まっている。業界では、安価な価格攻勢と規制の抜け道を突いた進出戦略に対し、「国内の遺伝子産業を脅かす外来種」とまで警戒する声も上がっている。
ノボジーンは2025年6月、ノボジーンコリアを設立。国内の病院や研究機関を対象に、真核生物のmRNAシーケンス(mRNA-seq)サービスを最大20%割引で提供するなど、積極的なマーケティングを展開している。
ノボジーンコリアは、ゲノムおよびマルチオミクス解析サービスを国内で提供する役割を担っている。問題は、ノボジーンが韓国でゲノム情報を収集した後、それを中国本社に送って分析する過程で、ゲノム情報が流出する可能性があるという点だ。
さらに懸念を深めているのは、ノボジーンコリアが入居する建物が韓国最大の健康診断機関「韓国健康管理協会(健協)」の施設である点だ。協会はこれまで次世代シーケンシング(NGS)サービスの提供を宣伝しており、今後ノボジーンと連携する可能性が指摘されている。
あるゲノム企業の代表は「建物が健協の施設であること自体が驚きだ。仮に健協がノボジーンと協力すれば、膨大なデータが流出しかねない」と懸念を示した。
中国企業によるゲノム情報の収集・流用は過去にも問題になっている。ロイター通信は2021年、中国遺伝子解析大手「華大基因(BGI)」が妊婦向けの出生前遺伝子検査キットを通じて世界中で800万人以上の遺伝子情報を収集し、そのキットが中国人民解放軍との共同開発であったことを報じた。国家安全保障目的での利用疑惑も浮上している。
韓国国内の法制度にも抜け穴が存在する。現在、国内企業には医療機関を通じた受託分析のみが認められ、消費者向け(DTC)遺伝子検査も「皮膚」「肥満」など一部の項目に限られている。一方で、海外企業は現地法人を通じて消費者と直接接触し、データを収集・国外で分析することが可能な構造が事実上容認されている。
韓国バイオ協会のイ・スンギュ副会長は「国内企業は法的制約が多い一方、海外企業はオンラインで自由に分析しサービス提供できるため、逆差別状態だ」と訴える。
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