
北朝鮮産の酒が韓国に入ってきたのは、2023年9月が約5年半ぶりだった。だが、中国経由で搬入された「高麗味噌酒」や「トルチュク酒(グミ酒)」は、いまだに仁川税関で留め置かれている。理由は、搬入に必要な書類を北朝鮮側が発行していないためだ。
こうした事態を受け、韓国統一省は1月16日、「南北交流協力に関する法律施行令」の一部改正案を立法予告した。これは統一省を中心に、食品医薬品安全処、関税庁、国家情報院などで構成された「南北交易関係部署TF」が、2025年11月から協議してきた結果だ。
来月中には「北朝鮮産食品の輸入検査手続きに関する告示」制定案と、「南北交易品の原産地確認に関する告示」の改正案も公開される予定で、いずれも北朝鮮産物品の搬入を円滑にするための措置だ。これにより、韓国内でも人気の「大同江ビール」が流通する可能性も出てきた。
◆原産地証明の壁を越えるために
かつて北朝鮮と一定の交流が可能だった時期、韓国側は北朝鮮の対南交流機関である民族経済協力連合会(民経連)や民族和解協議会(民和協)、アジア太平洋委員会(ア太)などを通じて取引していた。当時は韓国憲法第3条に基づき、南北の物品取引は「国内取引」とみなされ、関税が免除されていた。
しかし、2010年の天安艦事件を機に「5・24措置」が発動され、南北の交易は中断。2016年には北朝鮮が核・ミサイル実験を強行し、国連による対北朝鮮制裁が強化され、開城工業団地も閉鎖された。これにより南北間の物流は完全に途絶えた。
以降、北朝鮮産食品の搬入には、民経連が発行する「原産地証明書」が必要だったが、現在は北朝鮮側が韓国との全ての通信を断っているため、民間の輸入業者がこの書類を取得する手段がなくなった。北朝鮮産の商品自体は中国の仲介業者を通じて入手可能でも、それを韓国に持ち込むことができなくなっていた。
◆例外を認める新制度
今回の改正案はこうした状況を考慮したものだ。改正案第25条には、食品を搬入する際、「輸入食品安全管理特別法施行規則」で定められた海外製造業者登録に必要な書類の提出を義務づける条項が新設された。ただし、現実的に証明書の発行が不可能な場合に備え、例外規定も設けられた。
原則では、輸出国の政府または許可権限を持つ公的機関が発行する文書で、当該製造業者が合法に操業していることを証明する必要がある。しかし、一部の開発途上国などでは、こうした証明書自体が存在しないこともある。そのため、農産物の包装所や小規模製造施設などには、「海外製造業者登録情報確認書」を代替提出できるようにした。
この確認書には、製造所の名称・所在地・施設情報・製品の種類・安全管理体制の有無・代表者名・電話番号などの基本情報に加え、直筆署名または押印が必要となる。
こうした手続きを通じて、輸出国政府が公式に発行できない場合でも、安全性や製造履歴を確認できる資料を提出させる狙いだ。
今後は、これらの提出書類の信頼性について、統一省・関税庁などが参加する「原産地確認実務協議会」が審査する。ただし、安全性に関する懸念を払拭するため、北朝鮮産品については、初回搬入時や特別な事由が発生した場合に限らず、搬入のたびに精密検査を実施する方針も打ち出した。
◆「本物の北朝鮮産か」確認の限界と批判
改正案第25条には、単に第三国を経由するケースにおいて「関税法上の積み替え(複合積み替え)証明書」提出を義務づける条項も新たに盛り込まれた。これは製造国と出港・通関国が異なる場合を想定したもので、民間が作成する説明書ではなく、関税当局が関与した公式な輸送・通関証明である。
この証明書があれば、製造経路の追跡や真偽の判断、行政的管理がしやすくなるとされる。ただし、これでも「真に北朝鮮産かどうか」を完全に立証するには限界があるとの指摘も出ている。
また、改正案では通関段階で求められていた積み替え証明書を、搬入承認申請時に同時に提出させることで、手続きを簡素化した。これは2023年の味噌酒やトルチュク酒の事例を教訓にしたもので、搬入許可が下りた後も通関ができず、税関で長期間滞留する事態を避ける狙いがある。
しかし、一部からは「北朝鮮産品の真偽があいまいなまま反映される恐れがある」として、政府による過度な対北融和策ではないかという批判も上がっている。
韓国政府が今回の改正案を通じて南北交流の再開を模索し、対北朝鮮政策を進めるための仕組み作りに注力しているとの見方もある。2020年には中国の中継業者を通じて、北朝鮮の酒と韓国の砂糖を物々交換する取引が進められたが、国連制裁違反の懸念から立ち消えとなった。
今回の事例でも、北朝鮮酒の輸入を希望する業者は「物々交換」方式をとるとされる。これは銀行などを介さず、現金を使用しないことで、国連安保理決議が禁じる「大量現金」に該当しないという判断から来ている。
なお、国連安保理決議2397号は北朝鮮産の食品・農産物の輸出を禁じているが、酒・砂糖・ミネラルウォーターはHSコード(品目分類コード)の違いから、禁止品目に含まれていない。ただし、物々交換も「商業取引」とみなされる可能性があるため、実際に取引が成立するかは不透明だ。
現時点では小規模取引が前提となっているが、規模が拡大すれば金融問題が浮上するリスクもある。また、北朝鮮が韓国を「敵対的な二国間関係」とみなしている現状では、中国の業者に対しても南との取引中止を求める可能性があるとの見方も出ている。
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