「電気自動車(EV)の需要低迷に加え、火災事故まで発生している。状況は厳しいですね」
韓国のバッテリー業界の関係者はこうため息をついた。最近、韓国国内のバッテリーセルや素材を扱う企業各社が、軒並み惨憺たる業績を発表した直後のことだ。
初期導入層による購入が一段落したことや、高金利・物価高による消費心理の冷え込みなどが要因となり、EVの需要が一時的に停滞する「キャズム(Chasm)」が発生し、業績悪化を招いたのだ。
企業は売り上げ目標を引き下げ、投資ペースを減速させている。さらに追い打ちをかける形で、EVの火災事故が発生し、安全性への懸念が広がった。需要回復が待たれる中での大きな打撃であり、EV時代の到来が遠のいたように見える。
それでも関連企業は「EV時代の到来は避けられない未来」と確信している。
根拠は多く存在する。
米国は2030年までにEVの販売比率を50%に引き上げる計画であり、欧州は2035年までに内燃機関車の販売を終了する目標を掲げている。特にドイツでは、パリ協定の目標達成に向け、2024年から2028年にかけて約2800億ユーロ(約418兆円)を研究開発に、約1300億ユーロ(約195兆円)を工場建設に投じる計画だ。ドイツ自動車工業会は「記録的な投資は、EV時代への確信を示すものだ」と評価している。
一方で、キャズムと呼ばれているものの、EV市場の成長率が低いわけではない。
市場調査会社SNEリサーチは、2024年の世界のEV販売台数が1641万2000台に達し、前年比16.6%の成長を見込んでいる。2022年の61.3%、2023年の33.5%に比べ成長率は鈍化しているが、それでも10%以上の成長率は依然として高い水準だ。
現状のEV市場は不確実性に満ちているように見える。しかし、過去を振り返れば、新しい産業や製品が既存の技術を瞬く間に凌駕したことは少なくない。自動車が馬車を、デジタルカメラがフィルムカメラを、スマートフォンがフィーチャーフォンを急速に駆逐したように、技術の変革は迅速に進む。市場が安定した後に参入すれば、競争に遅れることは必至だ。
今はむしろ、困難な時期に未来を精緻に設計し、準備を進める絶好の機会だ。これにより、キャズムを越えた時には市場を素早く掌握する力を得ることができるだろう。関連企業がこの危機を乗り越え、さらなる飛躍を遂げることを期待したい。【MONEYTODAY パク・ミリ記者】
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