コラム
MONEYTODAY ソン・ジョンリョル(デジタルニュース部長兼コンテンツ総括)
ドラマ「私たちのブルース」が韓国で話題になっている。
社会性の濃い作品だ。マニア層のファンを持つ脚本家ノ・ヒギョン氏が多様な登場人物の「甘酸っぱく、苦く、渋い」人生の話を解きほぐす。それに共感し、泣き笑う人は多い。「さすがノ・ヒギョン」という声が出ている。
しかし、このドラマが最近、視聴率をはるかに上回る社会的注目を集めているのには理由がある。
ある出演俳優のためだ。イ・ビョンホン、シン・ミナ、キム・ウビン、ハン・ジミンら出演中のそうそうたる人気スターでも、コ・ドゥシム、キム・ヘジャなど大物俳優でもない。
その主人公は、ヨンオク(ハン・ジミン)の双子の姉ヨンヒとして登場する無名俳優のチョン・ウネだ。
ドラマでダウン症候群のヨンヒ役を熱演したチョン・ウネは、実際のダウン症障害者だ。障害者俳優がテレビドラマに主・助演級として登場したのは韓国で初めてだという。
「ダウン症の人を初めて見て、驚くこともあるでしょう。そのような障害のある人を見た時、どうすればいいのか学校や家でも教わったことがありません」。ヨンヒを初めて見て驚いたヨンオクの恋人ジョンジュン(キム・ウビン)の言葉だ。
韓国でダウン症を含む発達障害者は24万人余りと推計される。国内登録障害者数は昨年で264万人に達する。全国民の約4%だ。それでも依然としてテレビに登場する障害者俳優だけでなく、自分のまわりにいる障害者に接する時、私たちは驚いたり慌てたりする……。
「障害者である姉の扶養」という重い荷物を一生背負わなければならず、結婚は夢にも考えられないヨンヒ。果たしてドラマでヨンヒの愛はハッピーエンドなのか、悲しい結末となるのか。
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2019年3月、自閉症の息子を殺害した事件の判決公判があり、裁判所は被告の母親に懲役3年、執行猶予5年を言い渡した。その際、被告人に対する刑を決めるにあたり、悲劇的なこの事件の結果責任のすべてを、被告人だけに転嫁すべきではない――という趣旨の意見が添えられた。国家と社会の責任も問わざるを得ない、ということだ。
障害者家族の悲劇は続く。
今年5月、ソウルのあるマンションから発達障害の治療を受けている6歳の息子と40代の母親が一緒に身を投げて死亡した。また、仁川でも60代の女性が30年余り世話をした重症障害者の娘を殺害し、本人も命を絶った。
統計によると、2017~2021年の5年間で、全国で発達障害の子供の殺人、殺人未遂後に命を絶った事件は、少なくとも8件あった。
この悲劇の連鎖をどう断ち切るのか。
当然、政府は、障害者家族の「家族だけに頼るケア」の負担を減らすための政策・制度を導入しなければならない。それにもまして、障害者に対する韓国社会の認識と見解が根本的に変わらなければならない。
最近、韓国で社会的論議を呼んだ障害者の移動権保障要求デモを見てもそうだ。
このデモは2001年2月、京畿道始興市の烏耳島駅で発生した障害者用垂直型リフト墜落事故をきっかけに始まった。既に21年になる。障害者の移動権は当然の権利であり、不便というものを越えて生存権の問題だ。
しかし、一部には「1駅舎1動線」(地下鉄出口から乗り場まで連結された通路)へのエレベーター設置率は94%に達するとして、「障害者がわがままを言っている」と非難する声もある。さらに、政界でも障害者が「非文明的な不法デモ」で市民に不便を強いているという批判が出ている。
統計的には正しい。しかし、現実は全く違う。
地下鉄のエレベーターとリフトは頻繁に故障する。乗り換えの際は、エレベーターを探し回るのを覚悟しなければならない。
命懸けで地下鉄に乗る障害者の不安と、病気の子供を抱きしめて身を投げる母親の悲しみに、韓国社会はどれほど共感しているだろうか。障害者の問題が、彼らだけのものではなく、私たちのものになるのは、その時点からだ。
俳優チョン・ウネの登場は、障害者に対する私たちの古い認識に小さいが変化が現れていることを示している。今後、より多くのヨンヒが、テレビ、映画などで縦横無尽に活躍してくれることを期待する。これ以上、彼らを見て驚いたり、慌てたりしないように。
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