
北朝鮮が2025年8月28日、米韓首脳会談からわずか3日後に、キム・ジョンウン(金正恩)朝鮮労働党総書記が中国の「戦勝節」(抗日戦争および反ファシズム戦争勝利80周年)記念式典に出席すると発表した。キム総書記が6年ぶりに中国を訪れ、かつ初めて多国間外交の場に登場することから、注目を集めている。
北朝鮮の朝鮮中央通信と中国外務省は、同日午後にキム総書記の訪中を同時発表。今回の訪問は習近平国家主席の招請に応じたもので、キム総書記と習主席の首脳会談は、2019年に2回開かれて以来、6年ぶりとなる。
とりわけ、キム総書記はこれまで米朝・南北首脳会談の前後には必ず中国を訪れており、今回の訪中も北朝鮮が再び外交の表舞台に出る準備を進める動きと見る見方が広がっている。
キム総書記が2019年1月に中国を訪れたのは、トランプ米大統領とのハノイ首脳会談直前のことだった。同年6月には習主席が平壌を訪問している。今回も、日米韓の連携強化に対抗する意味合いが強いとされる。
慶南大学極東問題研究所のイム・ウルチュル教授は「北朝鮮・中国・ロシア間の“反ファシズム連帯”は、日米韓による安全保障協力への対抗性を帯びている」とし、「キム総書記の電撃的な訪中は、ロシアと中国を通じて朝鮮半島情勢の主導権を握るための勝負手だ」と分析した。また、「米韓および米韓日の対北非核化圧力共闘を無力化する狙いがある」とも述べた。
こうした文脈から、今回の訪中では「多国間外交」よりも、中国・ロシアとの二国間あるいは三者会談に重点を置くとの見方が有力である。特にロシアとの接近によって一時的に距離が生じた中国との関係修復を優先し、確実な後ろ盾を確保する狙いがあるとみられる。
実際に、北朝鮮と中国は今年に入って関係再強化の動きを見せていた。党機関紙「労働新聞」は3月、2018年の朝中首脳会談を「特記すべき事件」として再評価し、「今後も朝中友好は絶えず強化・発展する」と強調していた。
一方で、今回の訪中は北朝鮮が新たな外交路線の策定に向けた準備の一環との見方もある。北朝鮮は2025年末か2026年初めに開催が予定されている第9回朝鮮労働党大会で、新たな外交・軍事方針を打ち出すとみられている。
特に、米韓首脳会談でトランプ大統領がキム総書記との首脳会談に再び意欲を示したことを受け、北朝鮮側も新たな戦略構築に向けて中国との戦略的対話を重視している可能性がある。
キム総書記は、2018年の4月27日の南北首脳会談前に中国を訪れ、さらに会談後の5月にも再訪問して習主席と面会。6月12日の米朝シンガポール会談の直後にも北京に赴き、情勢分析と対応策を共有していた。重要な外交イベントの背後には常に中国が存在していた。
今回の会談では、10月末に韓国・慶州で開催予定のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議で、トランプ大統領が北朝鮮に対してサプライズ外交カードを切る可能性に備えた対応策を事前に話し合う可能性も指摘されている。
国家安保戦略研究院のキム・インテ首席研究委員は「北朝鮮は重要な戦略的局面を前に、朝中同盟を積極的に活用してきた」とし、「第9回党大会で新たな5カ年計画が議論される中で、単に日米韓への牽制というだけでなく、複雑な情勢を総合的に考慮した外交的布石だと考えられる」と語った。
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