現場ルポ
日も暮れたある日の夕方、いつものようにソウル地下鉄3号線に向かう。忠武路(チュンムロ)駅1番出口のエスカレーターが、普段より高く見えた。車椅子は、すべてのものを見上げるように作られているようだ。出口から外に出てきた人々は、なぜか私を見つめているようだ。エレベーターはどこなのか――。途方に暮れる。
韓国で最近、障害者団体「全国障害者差別撤廃連帯」(全障連)が地下鉄乗車デモを展開して非難された。通勤の市民に、過度な不便を及ぼしたというのだ。電動車椅子の後輪を足で蹴った市民もいたという。市民らの不満が浮き彫りとなり、そもそもなぜ障害者たちがデモをせざるを得なかったのか、忘れられてしまったようだ。
記者が実際、車椅子に乗って、地下鉄に乗車してみた。これまで一度も車椅子に乗ったことのない、28歳の男だ。
◇どこからも出られない
車椅子のため、エレベーターを探さなければいけなかった。だが、それは、すぐには目に入らない。幸い、スマートフォンの地図アプリに、体の不自由な人向けの経路が案内されていた。エレベーターは、記者のいる1番出口から約200メートル離れた7番出口にあった。
歩道ブロックがでこぼこしているのを体で感じ取った。傾斜もあり、車椅子は何度も、右に寄ってしまう。ゆっくり進むしかない。50メートル先の横断歩道の青信号はあと20秒ほど。あきらめて、ゆっくりとハンドリム(手で回す際に持つ箇所)を回した。両足で走れば、渡ることができる。だが、車椅子では無理だ。
改札は地下1階のエレベーター出口から10メートルの距離にある。近かった。だが、車椅子が通ることができるような広々としたドアは、最も遠い場所にあった。両足で歩いている時、「どの改札を通るか」「どうやって改札を通るか」など、わざわざ意識しない。でも、車椅子で通り過ぎるのは難しい。片手で扉を開け、もう片方の手で車椅子を押さなければならなかった。
最終目的地である3号線乗り場は地下4階にある。駅構内でエレベーターに2回乗らなければならない。最初のエレベーターで地下1階から2階に下り、次のエレベーターに乗り換え、地下4階に下りなければならない。2つのエレベーター間の距離は約80メートルだ。
忠武路駅はエレベーター間の距離が遠い方ではない。ただし、エレベーターを乗り換えるべきかどうかがわからず、動線を把握するのに時間がかかった。結局、忠武路駅1番出口を午後7時ごろに出発したが、3号線乗り場に到着したのはその30分後だった。
次の日、車椅子なしで歩いた時、10分ほどだった。
車椅子を利用する人は、この「エレベーター動線」を把握することが一苦労だという。
乗り継ぎのためのエレベーターをどこで乗ればいいのか、駅ごとに違う。例えば、地下鉄2・4・5号線が通る「東大門歴史文化公園駅」で4号線から2号線に乗り換えるには、最初のエレベーターで地下3階から地下1階に上がり、次に地下1階から地下2階に下りるエレベーターに乗らなければならない。
駅の外に出なければいけない場所もある。
盧原(ノウォン)駅は、4号線は地上3階、7号線は地下3階にあるうえ、水平距離も遠い。車椅子で乗り継ぐには、まず片方の乗り場のエレベーターで駅の外に出て、そこから約310メートル移動し、もう一方の乗り場のエレベーターに乗らなければならない。電動車椅子でも10分は移動しなければならない距離だ。
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