2025 年 10月 23日 (木)
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言葉の多い関税交渉は危険だ [韓国記者コラム]

米首都ワシントンでの韓米関税交渉の最終調整を終え、19日午後、仁川空港に帰国したク・ユンチョル(具潤哲)副首相兼企画財政相(c)news1

「外交とはチェスではなくポーカーだ。完全な情報の下で打つ手ではなく、計算されたリスクのゲームだ」

現実主義外交の象徴ヘンリー・キッシンジャーのこの言葉の意味は、情報が不完全な状況下で確率と損得を見極め、リスクを制御しながら局面を読むということだ。現在、韓国が直面している対米関税交渉もまさにそのような状況にある。完璧な情報はなく、制御すべきリスクは山のようにある。

ところが、この関税交渉をめぐって「言葉」があまりに多い。特に米首都ワシントンで実際に交渉にあたっている実務チームではなく、ソウルにいる韓国政府関係者たちから「交渉カード」に関する“成果予告”や推測・展望・中継コメントが次々と出ている。

現場はそのたびに混乱した。10月14日から同行取材した記者団は、ソウル発の記事にあった「新たな代案」「ウォン建てスワップ」「農産物ディール」などの報道について、実務者に「本当に確認された情報なのか」と何度も尋ねなければならなかった。

しかし、確定したことは何もなかった。国政監査でチョ・ヒョン(趙顕)外相が言及した「新たな代案」も、現場では具体的に確認されていない。ウィ・ソンラク(魏聖洛)国家安保室長が言及した通貨スワップも、3500億ドル規模の対米投資という大きな枠組みの中での一要素にすぎない。

問題は、成果の「予告」や「公開された楽観論(public optimism)」が交渉を揺るがす極めて危険なシグナルであるという点だ。

2019年のハノイでの米朝首脳会談の失敗がその典型だ。

当時、トランプ米政権は「歴史的合意が近い」と連日発信していたが、最終局面で北朝鮮が制裁緩和の範囲を狭める提案を出し、交渉の余地が消えてしまった。米CNNテレビは当時、「過度に公開された楽観論が交渉空間を狭めた」と分析している。

ク・ユンチョル(具潤哲)副首相兼企画財政相やキム・ヨンボム(金容範)大統領室政策室長、キム・ジョングァン(金正官)産業通商資源相ら交渉当事者が発言を慎んでいるのは、このためだ。

実務者は「交渉はカード1枚がずれるだけで失敗だ。署名するまでは何も確実なことは言えない」と口を揃える。

非対称交渉では「手札」の管理がより重要になる。今回も主導権を握るのは米国だ。韓国にも造船業や半導体供給網安定などの交渉カードはあるが、構図は依然として不均衡である。

米国側は韓国内世論もモニタリングしている。そこで不統一なメッセージや曖昧な情報が発信されれば、交渉そのものが揺らぎかねない。

ク・ユンチョル氏は国政監査直後に出国し、国際通貨基金(IMF)年次総会、G20財務相会合、ベッセント米財務長官との会談まで、殺人的スケジュールをこなした。キム・ヨンボム氏とキム・ジョングァン氏もホワイトハウス予算管理局(OMB)を訪れ、造船産業や投資ファンド構造について協議しながら交渉力を高めようと奔走した。

その結果、米国が「全額手持ち資金による投資」を固守している状況ではないというサインが20日、キム・ジョングァン氏の発言を通じて伝えられた。

今はまさに「青信号」を消さないために最も注意すべき時だ。ワシントンの交渉テーブルの上にはまだカードが残っている。今、必要なのは部外者による軽率な成果予測ではなく、交渉の最前線に座る者たちの「静かな一貫性」だ。【news1 イ・ガン記者】

(c)news1

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