◇Z世代に狙いをつける
Z世代を中心としたブームの背景には、AI研究院の徹底した計画があった。
LGが「AIで動く仮想人間」を着想したのは2019年。ターゲットを“未来のコア・カスタマー”となるZ世代にとらえ、以降、その方向性を一つずつ緻密に練り上げた。
そのプロセスは皮肉にも「“ティルダとは何か”に規定しないための」努力の連続だった。
差別に反対し、環境を愛する――これがZ世代に共通する特性だ。これ以外にも、あらゆる可能性を開くことに力を注いだ。
その結果、ティルダが望んだのは次の3点だ。
「Z世代とともに成長するキャラクターになること」
「どこの国の誰なのかもわからない」
「年齢も予測できないこと」
ティルダという名前には、こうした哲学が込められている。
そもそも「ティルダ」とは記号の「~」を指す「tilde(ティルダ)」から名付けられた。ティルダがZ世代と新しい波を作ることができる想像力の対象になってほしいという思いを込めた。
デビューは、Z世代にもっとも簡単に近づくことのできる分野でかなえたかった、とした。
「トレンドが形作られるサブカルチャーという分野で、ティルダを始動させたかったのです。ファッション業界でデビューすると決定したあとは、どのブランドとコラボすれば、ティルダの持つ多彩さと想像力を伝えられるだろうか、と悩みました」
イム氏はこう振り返った。
◇ティルダの反応にLG内部も鼓舞
ティルダに対するZ世代の高い関心を受け、LGグループ内部も奮い立っている。
昨年4月、スマートフォン事業を撤退後、10~20代との距離が広がっていた時だった。「Z世代が目にするマガジンや、媒体を通じて、LGが紹介されたことがほとんどありませんでした」。イム氏は当時をこう振り返る。それが今や「内部的にも肯定的な雰囲気」に変わったという。
近いうち、ティルダはさらに大衆に近づくそうだ。
「現実世界に出てくるかもしれません。プラットフォーム別に、それぞれのコミュニケーションの方法を取るかもしれませんよ。ともかく、Z世代とともに遊べる空間で、ティルダを紹介したいです。そのための最も良い方法を探っています」
イム氏はこう意気込む。
ティルダを支えるAI技術の開発も続ける。超巨大AIを通じ、新たに開発された技術があれば、順次、ティルダに搭載していく。イム氏はこうささやいた。
「ティルダが自然な形で動けるようなプログラムを開発しています。いまある仮想人間が、人の動きをモデルにグラフィックを重ねていくのとは異なります。ティルダは自ら感情を持っています。そして表現していくでしょう」
AIの最新技術が人々とどのように共存できるかを見せたい。ティルダが多様な分野で、すべての人たちとコミュニケーションを取り、コラボできるような友達になればいい――これがイム氏の理想だ。
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