
米国が韓国政府に対し、3500億ドル(約550兆円)という巨額の「現金による直接投資」を要求し、韓国側が通貨スワップ協定による支援を前提条件として交渉に臨んでいるが、実現の可能性は極めて低いとの見方が広がっている。通貨スワップが結ばれたとしても、外貨準備高の8割超に相当する巨額資金の国外流出によって韓国経済が受ける打撃は避けがたいとする分析だ。
韓国政府関係者によると、米国は最近、韓国に対し3500億ドルの直接投資を要請し、これに加えて「先払い(up front)」で支払うこと、さらに投資額を5500億ドルに増額するよう圧力を強めている。トランプ米大統領は9月25日(現地時間)、韓米間の貿易合意に基づくこの投資について「先払いが条件だ」と明言。米国のラトニック商務長官も、5500億ドルへの増額に言及した。
韓国政府は為替市場の動揺を避けるため、米国との間で「無制限通貨スワップ協定」の締結を先行させることを求めている。政府が通貨スワップにこだわる背景には、今回の要求が保証や貸付ではなく「現金投資」である点がある。短期間に巨額の資金が流出すれば、為替市場に大きな混乱が生じる可能性があるからだ。
キム・ヨンボム(金容範)大統領室政策室長は「無制限通貨スワップは必要条件であり、それが解決しなければ次には進めない」と述べ、協定締結を公式交渉の議題とした。
しかし、無制限スワップの実現可能性は低い。米国はこれまで、基軸通貨国以外と恒常的なスワップ協定を結んだ例がなく、韓国の要請にも否定的な姿勢を示しているとされる。
西江大学経済学部のホ・ジュニョン教授は「韓国と無制限かつ常設のスワップを結べば、米国は他国にも門戸を開かねばならず、負担が大きくなる。米国がこれに応じる可能性は低い」と指摘する。つまり、韓国政府が望む形でのスワップ締結は極めて難しいということだ。
仮に通貨スワップが成立しても、それは「緊急の資金注入」に過ぎず、根本的な解決策にはなり得ない。3500億ドルという金額は、2025年8月末時点の韓国の外貨準備高(4163億ドル)の84%、年間予算(673兆3000億ウォン)の73.4%、GDPの約19%に達する規模だ。スワップの有無に関係なく、これほどの資金が国外に流出すれば、韓国の金融市場は大きく揺れる。
ホ・ジュニョン教授は「通貨スワップがあれば為替下落はある程度抑えられるが、それでもウォン安は避けられない。求められている投資規模があまりに大きい」と語る。
この資金を準備する過程で韓国の国家資産が流出し、市場の流動性が吸収されて金利上昇を招く懸念もある。外貨を得るためにウォンを売れば、流通するウォンが減って資金が逼迫し、企業投資や家計消費にも悪影響が及ぶ。さらにスワップは返済義務を伴う「借金」であり、利子付きで返済しなければならない点も負担となる。
加えて、国内に建設されるはずの工場が米国に移されることになれば、「製造業の空洞化」も進む恐れがある。ホ・ジュニョン教授は「どんな形であれ、韓国の製造業の空洞化は避けられない」として、実体経済への打撃も不可避との見方を示した。
一連の要求が「現実的には実現不可能なレベル」だというのが専門家の一致した見解だ。亜洲大学経済学科のキム・テボン教授は「韓国の経済規模や財政状況から考えて、現実的ではないことを米国に明確に伝えるべきだ。スワップで解決できる問題ではない」と強調した。
結局、事態の打開には外交交渉力が鍵となる。投資を複数年にわたって段階的に実施するなどの現実的代案が模索されている。キム・テボン教授は「事実上、米国が要求する直接投資は不可能である以上、トランプ大統領の実績として利用される形で、韓国側の被害を最小限に抑える外交交渉が必要だ」と述べた。
ウィ・ソンラク(魏聖洛)国家安保室長も9月27日のメディアインタビューで「米国の要求は、客観的に見て現実的に韓国が負担できる水準ではない」と明言。「交渉戦術上の発言ではなく、与野党を問わず誰もが不可能だと認める事実であり、代案を協議している」と語った。
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