
「超低価格」戦略で韓国のオンライン市場を席巻する中国の電子商取引(Cコマース)企業「アリ・エクスプレス」「テム(Temu)」「シーイン(SHEIN)」などが、米国の関税政策を契機に韓国市場を戦略的な拠点と位置づけている。
これにより、韓国国内の電子商取引業界が深刻な打撃を受けており、中国直輸入による市場浸食や迂回輸出に対する先制的な対応が求められている。
韓国統計庁によると、2025年1~3月期の中国からのオンライン直接購入額は1兆2205億ウォンに達し、海外全体の直接購入額(1兆9551億ウォン)の62%を占めた。前年比では19.5%の増加となり、日本、米国、欧州連合を上回る伸びを示している。
背景には、中国EC企業が“超低価格”の商品で韓国消費者の関心を集めるとともに、インフレや景気停滞が長引くなか「品質より価格」を重視する消費トレンドが拍車をかけたと見られる。
実際、2021年第4四半期に4656億ウォンだった韓国の中国向けオンライン直輸入は、2025年第1四半期には約3倍となる1兆2205億ウォンに達した。一方、米国からの直輸入は6075億ウォンから3588億ウォンに半減している。
このような「中国直購」の急増により、韓国の対中オンラインショッピング貿易収支は悪化の一途をたどっている。2019年には4兆5222億ウォンの黒字だったが、2024年には3兆7996億ウォンの赤字に転落した。
こうしたなか、韓国国内のeコマース企業は苦戦を強いられている。データ分析企業ワイズアプリ・リテールによると、2023年時点のショッピングアプリの月間平均ユーザー数は、1位が韓国の大手EC企業クーパン(2908万人)、2位が11番街(892万人)、3位がGマーケット(634万人)だった。
しかし2025年3月時点では、1位は依然クーパン(3362万人)ながら、2位には中国系のアリ・エクスプレス(913万人)、4位にテム(831万人)が食い込んでいる。韓国系企業が苦戦する中、中国企業が勢力を拡大している。クーパンを除く11番街、SSGドットコム、Gマーケット、ロッテオンなどは軒並み赤字だった。
中国Cコマース企業が韓国市場への進出を強化する背景には、米国政府が中国製品に最大104%の相互関税を課し、800ドル未満の輸入品に対する免税制度を撤廃したことがある。これにより、米国市場への進出が困難になったCコマース企業が、地理的に近く関税の低い韓国市場を「代替市場」として急速に攻略しているのだ。
また、韓国を“迂回輸出”の通路として利用する可能性も指摘されている。中国と比較的友好関係にある韓国を経由することで、最終的に米国市場へと商品を届ける狙いがあると見られる。
すでにCコマース各社は韓国事業を拡張している。アリ・エクスプレスは2026年までに約11億ドルを投じて韓国内に物流センターを設立予定で、近年では工業製品に加え、生鮮食品や花卉類など新たなカテゴリにも参入している。テムも最近、京畿道金浦に大規模物流施設を開設し、長期賃貸契約を結んだ。
こうした動きに対し、韓国の業界内では「韓国の消費者やプラットフォーム保護を強化すべきだ」との声が高まっている。特に、海外主要国の先例を参考に「小額免税制度」を見直し、越境ECの拡大に伴う消費者安全の強化と、国内企業の競争力向上に向けた制度整備が必要との意見も出ている。
韓国貿易協会国際貿易通商研究院のチョン・ユンシク首席研究員は「主要国は中国投資への規制を強化する政策を導入している。韓国も現行制度の実効性を高め、米中貿易摩擦への先制対応が急務だ」と指摘した。
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