
「以前は私たちが国を心配していたが、いまは国民が私たちを心配している」
最近、韓国サムスン関係者に会うと、頻繁に耳にする言葉だ。中心にあるのはサムスン電子だが、他の系列会社関係者たちも「危機」という言葉をたびたび口にする。
最初は大げさだと思った。私の記憶の中のサムスンは、8年前の姿で止まっているからだ。2017年当時、サムスン電子は営業利益53兆6000億ウォンを記録し、翌2018年には59兆ウォンに達して過去最高記録を更新した。
高帯域幅メモリー(HBM)開発で遅れをとっているというニュースを聞いた時も、「すぐに追いつくだろう」と軽く考えていた。サムスンが遅れているというよりも、SKハイニックスが驚くべき成果を上げたのだと認識していた。
しかし、改めて対面した現在のサムスンは、私が知っていたサムスンとは大きく異なっていた。
せいぜい1年もあれば追いつくと思っていたHBM開発は、いまだに完了していない。どんなに技術的に難しい分野であっても、1年以上遅れるのは想像しにくいことだ。
今年3月、嶺南(ヨンナム)地方を襲った山火事対応でも、サムスンの姿は以前とは違っていた。数千人の被災者が発生したこの災害で、他企業が相次いで救援物資や義援金を送るなか、サムスンは3月26日午後3時を過ぎてからようやく30億ウォンの寄付を発表した。
かつて国家的な災害が発生すると、真っ先に動いたのは常にサムスンだった。サムスンの寄付金額を見て他企業がそれに応じた規模を決める、という暗黙のルールすら存在していたほどだ。もちろん、企業が自社の状況に応じて寄付を決定するのは望ましい。しかし、サムスンの変化は誰の目にも明らかだった。
過去8年間、サムスン内部で何が起きたのだろうか。
元・現職サムスン関係者が共通して指摘するのは、「No」と言えない雰囲気の蔓延だ。CEOや上司の決定に異議を唱えるためには、大きな不利益を覚悟しなければならず、異なる意見を聞いてより良い結論を導く過程が消えつつあるという。
また、苦労して迎え入れた人材が根付かずに去るケースも少なくない。ある元役員は「経営実績がいくら良くても、核心人材が会社を去れば(故イ・ゴンヒ会長から)厳しく叱責された。人材の採用と維持がCEO評価の大きな比重を占めていた」と語った。
さらに「後継者を育成しない」「創造性よりも勤勉・誠実さだけを要求する」といった話も聞かれる。サムスン内部ではすでに組織診断が進められており、「未来戦略室」の復活を含め、さまざまな改革案が議論されているという。近く何らかの結果が出ることが期待される。
サムスンを心配する一人の国民として、今回の声が小さくとも役立つことを願ってやまない。【news1 ソ・ミョンフン産業1部副局長】
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