
韓国のイ・ジェミョン(李在明)政権が11月17日、南北間の軍事境界線(MDL)の基準線設定を協議するため、北朝鮮に対して南北軍事会談の開催を公式に提案した。イ・ジェミョン政権発足後初の軍事対話提案で、南北間の誤認による偶発的衝突と、軍事的緊張の高まりを抑制する狙いがある。
韓国国防省のキム・ホンチョル政策室長は同日、「南北の偶発的衝突を防ぎ、緊張を緩和するため、南北軍事当局間で軍事境界線の基準線について協議する会談を提案する」と発表。会談の日程や場所は板門店を通じて調整可能とした。
背景には、今年だけで10回以上発生した北朝鮮軍によるMDL越境問題がある。北朝鮮軍は非武装地帯(DMZ)内で戦術道路や鉄柵を設置し、地雷の埋設作業を進める中で、一部兵士が境界線を越えて韓国側に侵入する事例が相次いでいる。韓国軍は警告放送や警告射撃で対応しているが、両国の緊張は高まる一方だ。
MDLは、1953年の朝鮮戦争休戦協定後、国連軍司令部の監督下で設置された1292個の標識で示されている。しかし、長年の風化や損壊で視認が困難なものが多く、1973年に北朝鮮軍が修復作業中の国連軍に銃撃を加えた事件以降、補修作業は中断されたままだ。
現在、韓国軍は標識が確認できる場合はそれを優先し、難しい場合は地図上のMDL座標を基準として境界を判断している。2004年以降、米国家地理情報局(NGA)と協力し、地図と実地の精度向上にも取り組んでいる。
一方、北朝鮮側はGPSを使用しておらず、標識も山間部や森林に設置されており視認性が極めて悪い。そのため、北朝鮮軍が作業中に誤ってMDLを越えるケースが多発しており、今年に入って少なくとも10回以上の越境が確認されている。
韓国政府はこれまで、国連軍司令部を通じて北朝鮮に対話を働きかけてきたが、一貫して無反応だった。今回が初の公式提案であり、南北軍事会談が実現すれば、2018年10月の第10回将官級会談以来、約7年ぶりとなる。
2018年の会談では、DMZ内の南北それぞれの監視哨所11カ所の撤収などが合意された。2000年以降、南北間では国防相会談2回、将官級会談10回、実務会談40回が開かれている。
北朝鮮は2023年末以降、キム・ジョンウン(金正恩)朝鮮労働党総書記による「敵対的二国家論」を掲げ、南北関係の遮断に向けた措置として軍を接境地域に投入。2023年4月以降は軍通信線および南北連絡事務所の通信もすべて遮断している。
こうした中での軍事会談提案は、MDLの明確化だけでなく、断絶された南北対話の再開を意図したものとみられる。韓国統一省も国防省の発表後、「軍事境界線に対する認識の違いによって緊張が高まっており、軍事的緊張を緩和し、偶発的衝突を防ぐことが何よりも重要だ」と声明を出し、北朝鮮に対して前向きな対応を求めた。
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