新しい現象を表す用語は、その現象が「日常」になると色あせる。「Nスクリーン」もその一つだ。
Nスクリーンは、2010年代にスマートフォンが広まり、新しいメディア視聴形態を指す用語だった。テレビ中心だったメディア視聴環境が、パソコンをはじめタブレットPC、スマートフォンなどさまざまな機器が使われるようになったため、「N種類のスクリーン=Nスクリーン」という名が付けられた。今は当然のことだが、当時は目新しい体験として受け入れられはじめた。
視聴環境はテレビでのリアルタイム放送プログラムを見ることのほか、スマートフォンとPC、VOD(ビデオ・オン・デマンド)など多様化した。こうした形態を包括する「統合的な視聴占有率」を算出するために、2017年からNスクリーン視聴形態調査が実施されてきた。
世の中が変化しているのに、視聴率がテレビに限定されているのは問題がある。Nスクリーン環境に合うよう統合された視聴率調査が必要だ――という、当時の問題意識に基づいていた。
しかし、このNスクリーンという用語、メディア業界ではもう聞かれなくなった。
世の中はさらに変化し、オンライン動画サービス(OTT)の時代を迎えた。テレビドラマも米動画配信大手ネットフリックス(Netflix)で見るようになった。
テレビ中心のNスクリーンの調査はますます、メディア視聴の現状に合わないものになった。
にもかかわらず、このNスクリーンという用語が、放送通信の主務部署である放送通信委員会の「2021年Nスクリーン視聴形態調査」報道資料に登場した。同委員会によると、スマートフォン約3000人、パソコン約1000人を調査対象とする大規模な調査で、約9億ウォンの予算が投入される。
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