2025 年 5月 3日 (土)
ホーム政治北朝鮮昼から日没まで、北朝鮮から聞こえる「女性がすすり泣くような不気味な音」

昼から日没まで、北朝鮮から聞こえる「女性がすすり泣くような不気味な音」 [南北境界地域ルポ]

北朝鮮の対韓拡声器(c)news1

「地震の前に動物が本能的に察知すると言いますよね。ここに住む人たちも同じです。南北間の緊張が高まり、状況が悪化する前には、それを全身で感じるんです」

韓国と北朝鮮の境界地域(接境地)である文山邑(韓国京畿道坡州市)に住むユン・ソリョンさんの言葉だ。

この地域では最近まで北朝鮮の「幽霊の声」や金属を引きずるような音など、奇怪な騒音に悩まされていたという。記者が訪れた2月28日には何の音も聞こえなかった。だが、ひとけがなく、荒涼とした雰囲気が、曇り空と冷たい風と相まってよりいっそう際立っていた。

北朝鮮側から奇妙な音は2月26日まで、昼から日没まで6時間以上、流れていたそうだ。

その録音を記者が聞いてみると――。

女性がか細い声ですすり泣くような不気味な音だった。

ユン・ソリョンさんは文山邑で8年間ゲストハウスを運営しながら、観光客にDMZ(非武装地帯)周辺について解説している。

新型コロナウイルスの影響で激減した売り上げは昨年初めから回復の兆しを見せていた。だが、昨年7月から韓国軍が対北放送を開始して、それに北朝鮮が対韓放送で対抗するなど、緊張が高まるにつれ、再び客足が遠のいた。

「外国人観光客や学生団体が主な客層ですが、このような雰囲気では明らかに訪れる人が減ります。3日前にも、ある学校が見学をキャンセルしました。保護者から『わざわざそんなところに行く必要があるのか』と抗議の電話もあったそうです。民間団体が近く、大規模にビラを散布すると言っていて、これ以上、雰囲気が悪化しないか心配です」

京畿道坡州市文山邑でゲストハウスを運営するユン・ソリョンさん(c)news1

対北ビラの散布による南北対立も依然として続いている。

議政府地裁高陽支部は2月24日、坡州市民9人が拉北者家族会や自由北韓運動連合など3つの団体を相手取って申し立てた「対北ビラ散布禁止」仮処分申請を棄却した。

これを受け、拉北者家族会のチェ・ソンリョン代表が3月中に対北ビラを飛ばすと発表し、坡州の接境地域では再び緊張感が高まっている。

◇日常生活の苦痛

同日午後1時ごろに訪れた臨津閣都羅展望台のゴンドラ乗り場。ここにはわずか15人の外国人観光客が並んでいた。台湾から来たワン・スチェンさんは「北朝鮮を見られると期待して訪れましたが、現在は屋上展望台に上がれないと言われてとても残念です」と語った。

展望台側は「昨年10月から南北関係が悪化し、北朝鮮軍がDMZ付近に多く移動したため、現在は屋上への出入りを制限している。昨年夏までは週末に約1500人、平日に800人ほどの観光客が訪れていましたが、現在は週末1000人、平日300人程度に減っています」と明かした。

京畿道坡州市第三トンネルの都羅展望台。チケット売り場に「北朝鮮軍の脅威により屋上への出入りが制限」と書かれた緊急告知が掲示されている(c)news1

坡州の住民らは、経済的な打撃だけでなく、日常生活の苦痛も訴えている。

臨津江統一大橋のすぐ前にある馬井2里の村会館で出会った高齢者約10人は、対韓放送の影響で今年の冬が特に辛かったそうだ。

「北朝鮮の音が冬にはもっとひどくなるんです。『冬は北西風が吹くから』とも『木の葉が落ちて山がすかすかになり音が通りやすくなるから』とも言われていますが、昨冬は一度鳴り出すと数時間も続き、本当に耐え難かったです」

民間人出入統制線内には大成洞、統一村、ヘマル村の3つの村がある。

大成洞の住民は「村の高齢者の多くが不眠症に苦しみ、認知症が悪化した方も増えました」と伝える。昨年末、京畿道庁が民統線内の全世帯に三重窓を設置したものの、多くの住民が農業を営み、外で過ごす時間が長いため、あまり効果がないという。

この住民は「最も確実な解決策は、騒音がなくなることです。そのために、まずは韓国軍が対北放送を停止してほしい」と訴えた。

2024年10月31日、平和危機坡州非常行動のメンバーが京畿道坡州市の臨津閣にある6.25戦争拉北者記念館前で、拉北者被害家族協議会の対北ビラ散布活動を糾弾する集会を開催している(c)news1

坡州市庁安全総括課は、民統線内の住民約700人を対象に昨年10月から心理相談を提供している。現在までに150人が不眠症やストレス性不安障害などを訴えている。坡州市庁関係者は「接境地域の多くの住民が日常生活に困難を感じており、市庁として昨年9月から国防省や合同参謀本部に対北放送の中止を要請する公文書を6回送ったが、問題は解決していない」と述べた。

(c)news1

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